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トワノクウ
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第九夜 潤みの朱(一)
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「えへへー。地図貸して」

 書き込んだ短針と0時の間が北となる。地図によれば北に進めば坂守神社に着くから――
 北は、今まで歩いてきた方向となった。

「……???」
「ツッコミは踵落としと平手打ちから選ばせてやるわよ」

 薫の踵を受け止めながらくうは必死で弁解した。

「合ってるのに! これで正しい方角が出るのに!」
「るっさい! んなトリビアあんなら正しく使いなさい!」

 くうは薫から逃れて近くの幹の後ろに隠れた。

「だって太陽の位置があっちだから北はあっち……」

 太陽を指すはずの指の先には、青空が広がるばかりだ。

「はれ?」

 人差し指を右へ左へ。ようやく太陽を指先に捉えてみれば、太陽は先ほどと全く異なる位置にあった。

「まじですかー……」
「どした?」
「立つ場所によって太陽の位置が違います」

 薫はさっと青ざめた。

「対侵入者用の結界が発動してるってこと? あたし免状持ってるのに何で……誤作動? それとも免状が利かないくらい浸食が進んで……?」
「薫ちゃん、どしたの」

 薫はキッとこちらを睨んで、目をそらした。

「まじないで方向が狂うようになってんのよ。あたしみたいな妖憑きが入ると発動すんの」
「――妖憑きって、薫ちゃんが?」

 朽葉に犬神がいるように。
 薫にも、妖が宿っている。

「そうよ。百年融けなかった万年氷の付喪神。つっても完全に制御できないけどね」

 薫は腕まくりをした。右腕に、紫の模様がある。刃と柊に守られて咲くひとひらの花弁。――妖憑きは身体のどこかにしるしを持つ。

(私の右手にあるのと似てない? それに薫ちゃん、そこってアトラクション入る前に入場スタンプ押した位置だったよね?)

 思考が上手く台詞にならず、ひとしきり口を開閉させてから。

「へ、へえ、そうなん」
「変なとこで切れてる」

 朽葉と同じケースに遭遇して、今度こそと思ったのに、また何も言えない自分がいる。朽葉のように大変な思いを一年もした同級生を慰める言葉さえ持たない――カラッポの篠ノ女空にはコトバがないから。

「方角割り出しながら進むしかないわね」
「え、でも、間違ってたら、それにそんなまじないとかあるなら意味ないかも」
「そんときはあんたのせいだから責任とんなさいよ」
「鬼ぃー!!」

 ――けっきょく、「三歩歩いて二歩下がる」を実践するかのごとき地道な作業をくり返しくり返し、くうたちの歩く先にようやく神社の鳥居が見えてきた。



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