トワノクウ
第八夜 地に積もる葉たちの寝床
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そんな、薄っぺらいコンピュータが診断してきた成績だけで自分を優秀だと思い込んでいた。
すると、しゃくり上げていたくうの、流れる涙を朽葉の親指が拭った。剣を握る手は肉刺だらけで、頬を包む感触はやわらかいものではない。それでも、くうには朽葉の手がどんなコットンより心地よかった。
「馬鹿者め。何でお前がそんな顔をする」
「だっ、てぇ……っ」
「泣くな。すごい顔だぞ」
「ぅ〜〜〜〜っ」
「あーもー」
朽葉はくうの頭をその豊かな胸に押しつけた。お母さんみたいだ。くうの母もよくしてくれた。
ぽんぽん、ぽんぽん。背中を一定のリズムで叩く手が、打楽器のように、くうの乱れた心を調律してゆく。
「……お前達は同じ目で泣くんだな……」
「ふぇ?」
「独り言だ。もういいか?」
くうは朽葉から離れる。名残惜しいが泣いてばかりもいられない。
「ねえ、朽葉さん、朽葉さん」
「ん?」
「くうね、最初の朝に朽葉さんのそっくりさんに会ったじゃないですか。あの時のあれが犬神さんだったんですか?」
「まあな」
朽葉に手を引かれてくうは歩き出す。黄昏色が落ちた土の通りは、昼に溜めた夏の暑気を放って歪んで見えた。
「犬神はたまに私の支配を抜けて勝手に動く。以前なら私の体を勝手に操って動き回ったのだが、今は実体化のための符を私が持っているから、それを使ったらしい」
「便利なものがあるですねー」
犬神という核心に切り込む勇気がなかったくうは、微妙にピントをずらしたコメントを選んだ。
「ああ。昔、神社に勤めていた友人がくれた。今は連れ添いと共に便りもないほど遠い土地へ行ったが、どうしているだろうな」
神社で働くとなると巫女か宮司といった神職者。寺の娘とはむしろ犬猿の仲ではないのか。
「最初は厄介だったな。こんなものがあっても、犬神など受け入れるものか、と息巻いていたから。一度使ってふんぎりをつけるまでずいぶんかかった」
諦めにも失望にも見える、けれども決して負ではない朽葉の苦笑は、夕陽に照って眩しかった。
(きっとくうの想像もつかないような苦悩があって、朽葉さんは犬神さんを受け入れたんだ。だから、くうなんかが何とか言う資格なんてない)
言葉を発するのさえ許されない時があるのだと、くうは初めて知った。
代わりに、朽葉が繋いでくれる右手はそのままに、左腕も使って朽葉の腕にぴったり寄り添った。
「――朽葉さん」
「ん?」
「今日の夕飯、何か食べたいものありますか?」
「そうだな……この前作ってくれた辛子鍋。あれがいい」
「分かりましたっ。帰ったら準備しますね」
この人の中にはまだ踏み込めない。まだこの人の本質は見えない。
人を、頭ではなく、心で知るのは、こ
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