トワノクウ
第二十五夜 風花散る (一)
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、そちらのほうに期待しよう。
着地した露草は錫杖を出し、紫の少女に向けた。
「あいつに何の用だ」
「どうでもいいでしょ。教えてよ、いるの? いないの?」
「さあな」
露草は錫杖を少女に向けて振り抜く。
少女は素手で錫杖を受けた。人体の手応えではない。刀で受け止められたに等しい。
露草は危険を察して一度離れた。
袖が落ちる。少女の腕は黒光りする鉄で覆われていた。指先に鉤爪。材質は凍った鉄。
「露草さん! ――薫ちゃん!?」
上からの声。この声は、くうだ。
露草は紫の少女を錫杖で弾き飛ばし、距離を取った。その露草のちょうど前に、白い翼を羽ばたかせながらくうが着地した。
左手の平の刻印が痛んだ時、くうは「薫が来た」と直感した。いつもなら根拠のない直感を実行するまでにはぐだぐだ悩むのだが、事が彼岸の友人に関わるなら話は別だった。
空を飛んで五重塔に帰ると、敷地で露草と薫が争っているのが見えたので、慌てて地上に降りた。
「どうしたんですか!? 薫ちゃんが来るなんて――まさか陰陽寮ですか? 攻めて来たんですか?」
「いや。来たのはあの小娘ひとりだ。見ての通りの有様でな」
くうは薫をふり返った。
「身崩れ。体が妖と混ざりかけてる。妖を使う人間てのはえてしてああなるんだ。体も理性も妖の気に負けて蝕まれる」
「混ざ、る」
薫の姿は、アメコミのアーマードスーツを中途半端に装着したような有様だった。ほつれた髪と、その下の目は般若。
「やっと、会えた」
そのように恐ろしい形相で、まるで恋い焦がれた相手を見つけたかのように、薫は呟いた。
「ねえ、あんた、妖なんでしょ? 妖だったら殺してもいいわよね!? あたしは陰陽衆なの! 妖を殺さなきゃ、あたしは寮にいられないの! あそこにいられなくなったら、あたしもう死ぬしかないじゃない!!」
菖蒲の話がよみがえる。――権力と妖の関係。
菖蒲は「責任を負いきれなくなる」と言った。村人たちの「責任」は寺社という土地の有力者に対する責任もあったのではないか。
一人の善意が権利者に攻撃される材料になったなら――その責任はとても負いきれるものではない。
妖は迫害せよ。さもなくば自分たちの生活は保障されないのだから。
そんな構造が目の前の薫に見えた気がしたのだ。
「あんたがいる限り、あたしはいつまで経っても息ができない……!」
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