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トワノクウ
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第二十四夜 禁断の知恵の実、ひとつ (六)
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「そうだ、銀朱から伝言。お前がくうを追い出すなら自分が引き取る、だと」
「銀朱が? それは都合がいいな」

 梵天の口から暗に手元に置く気はないと告げられ、露草は不快感を覚える。

 元・人間のくうが天座に足を運んだのは自分の失態に原因があるし、あんな儚い少女を利用して目的を果たせば用済みという梵天の態度が気に入らなかった。

「人間どもんとこにくうの居場所があると思ってんのか」
「白鳳としてなら貰い手数多だろうね。篠ノ女空としては微妙といったところか」

 梵天は露草が何か言う前に露草を見据えた。

「勘違いするな。彼女は自分から出て行くんだ。他でもないくう自身がここにいる理由を見出していない。いたくない者を無理に閉じ込める気はないだけだ」

 露草を目覚めさせる。真実()()()()()()()()()()()だと、くうが己に対して思っているなら、それは露草にとって腹立たしい事実だった。
 それは、自然に自己の価値を見限っている少女への義憤かもしれなかった。

 この場にいないくうに当たることもできないので、露草は話題を変えた。

「何で銀朱をあいつに会わせたんだ? 今の銀朱でも、あいつにゃあ毒気がありすぎるだろ」
「だからだよ。いずれああなるかもしれない、同じ混じり者なら特に、ね。あれも末路の一つ。それを彼女に理解してほしかったんだよ」
「――悪趣味」

 梵天はどこまで本気か分からない表情を作る。

「教訓は痛みを伴うもの。俺のせいにされたら堪らな――」

 空気が、ざわめいた。

 梵天と露草は会話を断ち切り、示し合わせたわけでもなく揃って露台に出る。

「おお、梵! 今、結界が」
「知っている。侵入者は?」
「うむ……それが」

 空五倍子が指したのは地上、石畳の上。供も仲間もいない孤軍の少女だった。



 くうの右手の平にあるしるしに鋭利な痛みが走った。

「……ったあ」

 体の中で共振する何か。
 すぐ近くに、自分に近しい属性を持つ誰かがいる。

「――薫ちゃん――?」

 唇から零れたのは、たった一人の友達の名だった。





 事は陰陽寮で起きた。
 灯りとりがあるので完全に暗くはない座敷牢。それでも年端のいかない娘を滅入らせるには充分だろう。

「藤さん、いい加減反省し……」

 言い終える前に異変に気づき、黒鳶は牢内に飛び込む。

 内側から壊された木枠。引きちぎられた鎖。何より、無人。

 黒鳶は片手で顔を覆って仰臥した。

「〜〜っりやがったあの小娘!」

 黒鳶はかつてない腹立ちに突き動かされるまま、座敷牢を飛び出した
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