トワノクウ
第二十四夜 禁断の知恵の実、ひとつ (六)
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いを馳せたのは、くうを二度目の死から救ってくれた恩人。
「梵天さんもそう思ってらっしゃるから、今日までどんなにうっとーしくても菖蒲先生との縁を切らずにきたんじゃないですか?」
露草の表情は苦々しい。梵天を持ち出されると黙らざるをえないあたり、露草も梵天を憎からず思っているのだろう。
「気持ちをすなおに語ってくださる間は、菖蒲先生の心は開かれてるんです。もー全開なんです! あとはこっち次第。たとえ開いた心の扉からガトリング砲が出てこようが突撃あるのみです!」
「いや西洋の砲撃武器はだめだろ」
冷静に突っ込まれたが間違った喩えとは思わない。
(きっと不登校児を毎日訪問する教師や委員長はこんな気分にちがいないです。ということはイベントとして一度相手への手応えを見失って挫折したあたりで自分を見つめ直してまた訪ねて、へこたれなかったこっち見てフラグ立つって感じのルートですかね)
ここに薫か潤がいれば「おいこらゲーム脳」くらいは言われていただろう。想像すると切なかった。
「どこまでお人好しなんだか――」
「もちろん現実が都合よく行かないことは頭じゃ分かってるんですよ? くうは大切な人を喪った経験もありませんし、そんなくうに何が言えるかも分かりません。ひょっとしたらくうが何かしなくても、菖蒲先生はとっくに元気なのかもしれません」
「それでも菖蒲にかまけるんだな?」
「はい」
露草は天を仰いでこれみよがしな溜息をついた。
「分かったよ。好きにしろ。送り迎えくらいはしてやる」
きっと今のくうは満面の笑みを浮かべている。
「はい! ありがとうございます!」
露草は一人で五重塔に帰り着いた。
別にくうを置いてきたわけではない。くう自身が「一人作戦会議です!」と、気合満面に両拳をぶんぶん振るものだから、望み通り一人にしてやっただけだ。
ぎしぎし。歩くほどに廊下を軋ませながら、露草は誰何なく梵天の居室を開け放った。
「おかえり。意外と早かったじゃないか」
「大して話すことなんてねえよ。平八とも菖蒲ともな」
梵天は悠然と欄干に半身をもたせかけ、頬杖を突いていた。
――この男が露草を救うために尽力し、奔走したのだと思うと、どうにもむずがゆい心地がした。
ただ、目覚めた時、露草はそれが梵天の成したことだろうと確信はしていたのだ。
目覚める直前の夢うつつ。闇を裂いた光の中から羽ばたきの音が聴こえた。だから、梵天だと思った。
(……なんて、口が裂けても言わねえけどな)
「何だい?」
「別にっ」
露草はことさら強く言い放って雑念を払った。
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