第一部 学園都市篇
第2章 幻想御手事件
20.July・Night:『The Jabberwock』
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久方ぶりの暇な午後、何をしようかと人でごった返す街路を歩く。商店、喫茶店、ブティック、露店商。あらゆる職種が其処に在る。群がる人波は、まるで甘味に集う蟻の如く。
その中を、無目的に歩く。別段、用事が在った訳ではない。嚆矢は、胡乱な蜂蜜色の瞳をぼんやりと辺りに彷徨わせながら、殉教者の如く歩き続ける。
「暇だねぇ」
そんな事を呟きながら、無駄に人目を引く亜麻色の髪を掻き毟り、欠伸混じりに煙草を取り出した。暇潰しの道具を。
この無為の世界の中で、紫煙と酒の酩酊だけが、色付く虹なのだと叫ぶように。
――止めろ、嚆矢。今のお前は、『対馬』だ。その筈だ。
本能がそう、警告を鳴らす。思い出したのは、煙を燻らせた己に向けられた――黒子の、冷やかな眼差し。
辛うじて、理性が働く。別に、本能と理性は背反しない。煙草を諦め、懐に仕舞う。今は、その時ではないと。時間なら、この後に『無限に在る』と。
「さて、と。そろそろ、頃合いだな」
焦燥に導かれるまま、掌を伸ばす。右腕、何の変哲も無い、その、開手の右腕。昔は、望む全てを。それこそ、他人の命すらも掻き掴んだ悪性の右腕。最近は、随分と綺麗になってきたが。
誰か、預かり知らぬ存在の――――そんな、願いに沿うように。嚆矢は苦笑いを浮かべながら、
「『仕事』の仕込みと、洒落混むか」
今日、夕方に会う予定となっている――――暗部組織の構成員との、繋ぎの為に。
仕事とはいえ、頭が痛くなる。元来、煩わしい事は嫌いな性質だ。
――名前は、昔の『通り名』を使えばいいとして……能力だな。無能力者を気取る? 能力者の集団で? 無いな、けど……『確率使い』を名乗ったら一発でバレるしなぁ……。
頭を悩ませる。それは、喫緊に差し迫っている。確かに分かりにくい能力だが、それだけに目立つ能力だ。
だから、割り切るしかない。全ては、『仕事』だ。選り好みなどしていられない。
「あ〜あ、ホント、最近ツいてねぇなぁ……」
頭の後ろで手を組ながら、悪態を吐く。女の子と後輩からの評判はがた落ち、仕事はやりたくもない内容。辟易する。もういっそ、学園都市なんかとはおさらばしてやろうか、等と。出来もしない、やりもしない事を思って。
「――――――――」
すれ違った、黒髪の少女。それに、目を奪われた。
何が特別だった訳でもない、何の変哲も無い、強いて言うなら巫女装束なくらいか。表情に乏しい、人形じみた、普通なら気にも留めないような――極々、『普通な』少女だ。
「っ――――!」
そんな少女の後ろ姿を、追う。何に惹かれたのかも、良くは分
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