第一部 学園都市篇
第2章 幻想御手事件
20.July・Night:『The Jabberwock』
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、何とも胃もたれしそうな密度である。
「どうぞ」
「ああ、すまない――なんだ、君もイケる口か?」
安い煙草を銜えたステイルに、百円ライターを差し向けた嚆矢。己も、煙草を銜えて。
「大変だろう、来て初めて、地上には喫煙者の安寧はないと思い知らされたからな」
「はは、違いない」
それに、ステイルはフッと、アンニュイな微笑を見せた。赤い、自身の髪と同じ色の焔を煙草の先に煌めかせ、紫煙を棚引かせる。随分と慣れた、その仕草。
同じく、嚆矢も紫煙を燻らせる。吐いた煙が、天井の吸気口に呑み込まれていく。
「「――――甘露だ」」
期せずして同じ台詞を吐き、共に虚空を見詰めたままで薄く笑い合う。同じ嗜好品を嗜む、これも共感覚性だろうか。
狭い、喫煙者の立場を表すかのような狭小な喫煙所内。手を伸ばせば顔面に拳を決める事も、それを拉いで叩き付ける事も造作の無い距離。即ち、互いの必殺の間合いで。
「それ、中々良いアクセサリーだ。何処で手に入れたんだ?」
「ん――ああ、『兎足』は母に。『銀箱』は……先生から貰ったんです」
「母に、先生か」
繁々と、嚆矢の首から下がる二つのアクセサリーを眺めたステイル。値踏みでもするかのように、二つを眺めた後。
「『幸運の護符』と『共有世界の神話体系』の魔道具……随分と手の込んだ話だが、想像通りならば然もありなん」
「え? 何ですか?」
「いや――――随分と、見込まれているようだと思ってね」
煙を吐き、小さく何かを呟き、またも気怠そうに微笑んだステイル。
その瞳には、何故か――――憐れみのような色が在って。
「さて、じゃあ本題に入ろうか。対馬嚆矢君。君は、仇為すか?」
「仇為す? それは、何に対して? あんたの――――十字教に対して、かい?」
ステイルの言葉に、半ば呆れたような嚆矢の声と――――蜂蜜色の黄金瞳が返る。
ステイルと同じく、無害を装う魔瞳が。
「隠しても分かるさ。義母さんの嫌いな英国訛り。一階をグランドフロアと呼んだ、アンタ」
「……ふ、なるほど。墓穴を掘ったか。しかし、君の母親は『アイルランド闘士』か何かかい?」
微笑に返るのは、微笑のみ。余りにも穏やかに酌み交わされた、余りにも緊迫した殺意。応酬などしない、暗殺者同士の確認作業だ。
「まさか。只の、良く居る英国嫌いの主婦さ」
「それは、それは。清教側の僕としては――」
焔の如き男が、笑いながら肩を叩く。軽く、軽く。殺意などなく、ただただ――――
「――『沈静』、『|沈勢《ナウシズ
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