第一部 学園都市篇
第2章 幻想御手事件
20.July・Night:『The Jabberwock』
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からない。だと言うのに、焦燥にも似た感覚が身を焦がす。その、身に纏う雰囲気とでも言うべきものに、惹き付けられている。
それは――誘蛾燈に引き寄せられて自ら焼け死ぬ、愚かな蟲のように。抑え難く、堪え難い。愛を歌う為の、致死の罠。
「――――?!」
角を曲がった背中を追い、息を急ききって人並みを掻き分ける。
何事かと、周囲の人間達が目を向ける。一切、どうでも良い事だ。種族など、雑草としか感じ取れない――種族には。
「おっと」
「ッ――あ、すみません」
そこで、人とぶつかった痛みに我に返る。眼前には、赤いセミロングの髪に左目の下にバーコードのような刺青をした、黒いローブの大男。
焔の如き蜂蜜色の黄金瞳に、理性が戻る。身を焦がす衝動も、こうなれば容易い。『武の頂』と例えられる弐天巌流の合気道部を率いた彼、『制御できない装備など無意味』として精神修練に最も重きを置く校風に裏打ちされた、強靭な精神力を遺憾なく発揮し――――まるで、十年前に戻ったかのような己を抑え込んで。
「何を急いでいるかは分からないが、気を付けたまえよ。肩が触れた、それだけで暴力に走る輩もいないことはない」
「あ、は、はい……すみませんでした」
恐らくは年上だろうその男に向かい、謝罪する。確かに今のは、自分が悪い。『女の尻を追っかけていて前方不注意』など、九州男児を標榜する義父に知れたら拳骨ものである。
「分かって貰えればそれでいいよ。ところで――――」
そこで、男は口を開く。実に、実に困ったように。そのポケットから――煙草を取り出して。
「実は、そろそろニコチンとタールが切れそうでね……この近くに喫煙所、あるかい?」
「ああ、ええ、まあ……二分くらい掛かりますけど」
「助かるよ。まさか、都市全体が禁煙とは思わなくてね」
苦笑しながら――――煤の色と臭いの男は、嚆矢の蜂蜜色の瞳を見詰めた。
何となく、憎めない……まるで年齢は反対だが、弟のような。
「ああ、そうだ。僕は――――ステイル=マグヌス。君は?」
「対馬嚆矢です、マグヌスさん」
だから、つい。先ほどまでの気晴らしにと、この――――見ず知らずの男と一服しようかな、くらいの軽い気持ちで。
その歩調を、魔女狩りの燃え盛る焔のような男に合わせた――――。
………………
…………
……
喫煙所は、無人だった。つまり、嚆矢とステイルで貸切り状態。
身の丈二メートルの大男と、身長こそ及ばないものの靭やかに鍛えられた筋肉量は男を上回っている武闘派の少年。二人だけでも
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