暁 〜小説投稿サイト〜
Shangri-La...
第一部 学園都市篇
第2章 幻想御手事件
20.July・Night:『The Jabberwock』
[2/22]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
からない。だと言うのに、焦燥にも似た感覚が身を焦がす。その、身に纏う雰囲気とでも言うべきものに、惹き付けられている。
 それは――誘蛾燈に引き寄せられて自ら焼け死ぬ、愚かな蟲のように。抑え難く、堪え難い。愛を歌う為の、致死の罠。

「――――?!」

 角を曲がった背中を追い、息を急ききって人並みを掻き分ける。
 何事かと、周囲の人間達が目を向ける。一切、どうでも良い事だ。種族(ニンゲン)など、雑草としか感じ取れない――種族(カレラ)には。

「おっと」
「ッ――あ、すみません」

 そこで、人とぶつかった痛みに我に返る。眼前には、赤いセミロングの髪に左目の下にバーコードのような刺青をした、黒いローブの大男。
 焔の如き蜂蜜色の黄金瞳に、理性が戻る。身を焦がす衝動も、こうなれば容易い。『武の頂』と例えられる弐天巌流の合気道部を率いた彼、『制御できない装備など無意味』として精神修練に最も重きを置く校風に裏打ちされた、強靭な精神力を遺憾なく発揮し――――まるで、()()()()()()()()()()()()()を抑え込んで。

「何を急いでいるかは分からないが、気を付けたまえよ。肩が触れた、それだけで暴力に走る輩もいないことはない」
「あ、は、はい……すみませんでした」

 恐らくは年上だろうその男に向かい、謝罪する。確かに今のは、自分が悪い。『女の尻を追っかけていて前方不注意』など、九州男児を標榜する義父に知れたら拳骨ものである。

「分かって貰えればそれでいいよ。ところで――――」

 そこで、男は口を開く。実に、実に困ったように。そのポケットから――煙草を取り出して。

「実は、そろそろニコチンとタールが切れそうでね……この近くに喫煙所、あるかい?」
「ああ、ええ、まあ……二分くらい掛かりますけど」
「助かるよ。まさか、都市全体が禁煙とは思わなくてね」

 苦笑しながら――――煤の色と臭いの男は、嚆矢の蜂蜜色の瞳を見詰めた。
 何となく、憎めない……まるで年齢は反対だが、弟のような。

「ああ、そうだ。僕は――――ステイル=マグヌス。君は?」
「対馬嚆矢です、マグヌスさん」

 だから、つい。先ほどまでの気晴らしにと、この――――見ず知らずの男と一服しようかな、くらいの軽い気持ちで。
 その歩調を、魔女狩りの燃え盛る焔のような男に合わせた――――。


………………
…………
……


 喫煙所は、無人だった。つまり、嚆矢とステイルで貸切り状態。
 身の丈二メートルの大男と、身長こそ及ばないものの(しな)やかに鍛えられた筋肉量(からだつき)は男を上回っている武闘派の少年。二人だけでも
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ