第一部北領戦役
第八話 川は深く・対岸は遠く
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員配置に戻れ」
将校達が退室すると一変して弛緩した青年少佐は脱力しきった声をあげた。
「――とんだ茶番だな」
「今更だろう」
不意に背後から声がした。
「・・・脅かすな。ド阿呆
何だ?何時だったか根性悪呼ばわりした事でも根に持ってるのか?」
馬堂少佐が視線を向けた先には新城大尉が居た。
「いや、千早も居るのに気がつかない貴様が重症だと思うが」
新城大尉の言葉に馬堂は苦い笑みを浮かべた。
「皆を配置につけた筈だがね」
「自分は此処が配置です。大隊長殿」
恭しく敬礼する新城に豊久は乾いた笑い声をあげて肩をすくめて見せた。
「・・・忘れていたよ」
新城は別行動以来、二日ぶりの本部配置だった。
隊員や砲の配置に築城作業、馬防柵の設置に補給の配分とやるべきことは山のようにあった。
「あー、それで、何か説明に穴があったか?」
「いえ、今の時点では十分です。
それより、漆原少尉はどうするおつもりですか?」
真剣な目で見つめる新城に馬堂少佐も大隊長の口調で応じる。
「・・・・・・お前の警告通りになったな。
あの様子では使い物にならない。予備に置くつもりだ」
「はい、それならば、
早い内に予備を一度投入した方が宜しいかと」
新城の言に豊久は眉をひそめた。
「何故だ?予備隊は最後の盾、守勢に徹するのなら慎重に運用しなくてはならん。
消耗を抑制しなければ時間は稼げないぞ?」
――何故か消耗抑制という言葉から妙に不吉な香りがしたが無視する。
「敵の動きを混乱させます。此方の兵力を過小評価するか、過大評価するか。
どちらでも損はありません」
「帝国側が過大評価するなら慎重になり行動が鈍る。
過小評価するなら攻め急ぐ敵を火線集中地点に引きずり込み結果は同じと?」
この防御陣地の築城に際して練った工夫の一つである、壕や砲に角度をつけある程度侵入したら一掃させる事が可能だ。
「だが、賭けになるぞ?
最悪、過大評価されたとしても、仮に敵の騎兵大隊に回り込まれたら防ぎきれるか自信はない」
先ほどは自信満々に弁舌をふるっていたが、実際はさほどの自信はない。相応の理はあるが、結局は初撃をしのげるかどうかですべてが決まる。
「だからこそ、です。
戦力を過大評価するなら迂回の準備に時間を掛けます。
真室の穀倉を破壊した今なら回り込む時間を考えても十分に採算がとれます」
――成程ね。過小評価されても損害を増やせば以下同様、と
かつては軍中枢に身を置いた秀才らしく素早く構想を読み取った。
「迂回の準備はどれ程かかると予想する?」
経験豊富な元兵站幕僚の計算ならば信用出来るだろうと問う。
「もし大隊規模なら三日以上はかかるでしょう。
何しろ向こうの
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