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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第八話 川は深く・対岸は遠く
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皇紀五百六十八年 二月十七日 午後四刻 御崎岬沖 〈皇国〉水軍巡洋艦大瀬
大瀬 艦長 坪田典文〈皇国〉水軍中佐


坪田典文水軍中佐は慌てて手摺にしがみつきながら舌打ちをした。
――酷い大時化だ。夕刻に成ってから更に酷くなっている、だが俺達は前進しなければならない、敵地となった真室に、穀倉を焼いて潜伏している部隊がいるのだ。
 ――俺は、否、水軍は彼らを助けなければならない。
 その時信号士官が坪田の肩を強く叩いた。

「――――――――!―――!」

 何かを見つけたのか一点を指して何かを言っているがこの嵐の中では坪田の耳には届かなかった。
 それでも目を凝らすと暗灰色の空をふらふらと動く何かが見えた。
 ――あれは・・・竜か?水軍の飛竜だろうか?
 暴風に翻弄されているのだろう、それこそ鉄砲水に浮かぶ木っ端の様に動いている。
「誘導灯を出せ!風に流されている!
あれでは振り落とされてもおかしくない!」
 坪田は慌てて信号士官の耳許で叫ぶ、こうでもしなければ聞こえない。
 竜も一か八かと着艦しようとしたが波に揺られ竜士は竜ごと壁に叩きつけられた。
「ッ・・・」
 竜士は呻いて起き上がろうとするが立ち上がれない。
慌てて水夫達が這い寄り、用意させた命綱で彼を繋ぐ。竜も何とか同様にする。
揺れが酷かったが彼を何とか艦橋の中、海図室に運び込んだ。

「おい!大丈夫か!」

「・・・脚が痛みますが・・・大丈夫です、艦長」 
船医の診断では重度の捻挫らしい。これでは竜に乗るのは不可能だろう。

「おい!何故この様な所にいたのだ?」
「はい笹嶋司令の厳命で・・・真室の状況を・・・風に流されて・・・」
 ――これでは竜で戻るのは不可能だ。

「真室の状況――?おい、どうなっている!」
返答次第では――戻らなくてはならないかもしれない。
 坪田は荒らしの中にいた時のような勢いで竜士に詰め寄った。


二月十九日 午後四刻 小苗橋 
独立捜索剣虎兵第十一大隊 大隊本部 大隊長 馬堂豊久


 第十一大隊は新城大尉率いる遅滞戦闘部隊と無事合流し、補給と再編成と並行して近衛の助力を得ることで築城作業を完成させつつあった。
 近衛工兵中隊を中心とした作業陣は可能な限り迅速に作業を続けており、明日の早朝、近衛達の出発までには交戦が可能な状態になるだろう。
 そして工兵達を除いた指揮官達は、明日にでも始まるかもしれない戦いの為、本部に集合させられていた。
「さて、大尉。敵の位置は?」
「はい。敵の先鋒は十八日早朝に真室の渡河を開始し、
午後三刻の時点で現在位置より十五里程の距離におります。」
 合流した新城が応える。
「成程、どちらも許容範囲内だな。寧ろ上々か。
さて、現在の状況だが、
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