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妻を見ること
第四章
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 それに応えておたけが出て来た。寝巻のままである。
「もう帰って来られたのですか」
「一体何を言うておる」
 浜田はそのおたけにこう述べた。
「御主がわしを呼んだのではないか」
「私がですか」
「そうじゃ」
 彼は述べる。妻の顔を見ながら。
「泊まっていた場所に出て来てな」
「はあ」
 言われても首を傾げたままであった。
「それは覚えておりませんが」
「そうであろう」
 浜田は女房のその言葉に頷く。
「御主は生霊となって来ておったのじゃからな」
「生霊ですか」
「歌を詠んだであろう、夢の中で」
 彼はそれを問うてきた。
「どうじゃ?間違いなかろう」
「はい、確かに」
 そして彼女もそれを認めて頷いてきた。
「その通りです」
「やはりな。では決まりじゃ」
 浜田はそれを聞いてあらためて頷いた。そのうえでまた述べる。
「御主は生霊となってわしに歌を授けてくれた。済まぬな」
「いえ、それは」
 おたけは彼が礼を述べたのに少し戸惑いながら返事をした。
「妻ですから」
「この礼は何時かする」
 彼は述べた。
「そういうことじゃ。では帰ったし」
「どうされますか?」
「床に入るとしよう。よいか」
「畏まりました。それでは」
「うむ」
 こうして二人は共に床に入った。その中で再会を楽しむのであった。
 それから暫くして大内氏は陶の謀反によって義隆が自害し家は陶に操られることになる。それを見た浜田はどうするべきかと思ったがそのおたけの言葉に従い大内を離れ毛利についた。毛利氏では外様ながら教養と知識を替われ政治において活躍した。厳島では思いも寄らぬ武勲をあげその名をあげた。以後それからも毛利の名臣として称えられた。それは全て妻おたけの内助の功によるものであると伝えられている。実によくできた女房であった。



妻を見ること   完


 
                 2007・2・15


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