志乃「絶望という言葉を気安く使うな」
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かした男は続いて言い放つ。
「君達は、自分が特別な存在とでも思っているのか。ならそれは間違いだ。確かに、刺又などという非力な物で仲間を撃破したのだろうが、所詮そこまでだ。君の行いは、自身を危険に近づけるだけの自殺行為だ」
「それは正論かもしれない。まず俺は特別なんかじゃないし、アンタらの仲間倒せたのも悪運が強かっただけだ。だけどさ」
俺は一拍置いて、こう口にする。わずかに、ハゲチャビンの持つ銃が動いた気がした。
それでも、俺は素朴な質問を銃持ちに、この室内にいる連中に問い掛けた。
「特に秀でた面の無い、逃げる事しか出来ない高校生が、妹を守るために立ち上がっちゃいけないのか?」
俺には『才能』が無い。いつも皆の後を必死に追いかけて、遅れて何かを掴み取る人間だ。
努力がいつか報われる時が来る。そう信じて剣道を続けてきた。だが、それは間違いだった。
「努力が報われるだなんて思うのは止めろ。努力を努力だと思ってる人は間違い」と、先日のテレビで芸能人が言っていたのを思い出す。その言葉は、俺の頭の中で時折再生され、それについて考える事がたまにある。
そして気付いた。俺は、努力する事ばかり考えていたという事に。『好き』という感情をどこかに置き忘れていたという事に。
努力したのに報われなかったというのを言い訳で散々逃げて来て、結局将来に響くような事までしてしまった。今頃嘆いても仕方ない事は分かっている。
だが、その芸能人は最後にこう締めくくった。
――「報われなくて腹立つ。見返りを求めるとろくな事にならない。好きな事を続ける事が既に報い」
――「どれだけ頑張っても成果に現れなくて結果が違くなっても、努力してきたそのプロセスは決して無駄にはならない」
その言葉は俺にとって衝撃的で、ものすごく身に染みた。思わず涙が滲んだのを覚えている。
俺は剣道で強くなりたかった。でもなかなか上達せず、後輩に追い抜かれる毎日。徐々に『楽しい』と思わなくなった。
しかし、中学校に入って剣道の『楽しさ』を再び覚えた。それは、もっと強くなるという思いに繋がり、努力を始めた。
これがダメだったのだ。俺は、自分が報われる事だけを信じていたのだ。
辛い事をこなせば強くなれる。子供じみた考えだ。今更ながら自分がバカみたいに思えた。
俺はもう剣道をやる気は無いし、竹刀を握る事すら許されないだろう。
だが、それと妹を守る事は別だ。
『才能』の有無、天才、努力……単細胞な俺が拒み、追い求めた存在が、妹を守る事に必要だろうか。答えはNOだ。
努力しなくたって、天才じゃなくたって、身体を張って生意気で小うるさい妹を安心させる事は出来る。一+一と
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