第四章
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第四章
「死ぬまで。いや、その人間が死んでも後の人間がな」
「そうしていくと」
「永遠にそうかもな。だがそんな先のことを言っても仕方がない」
「まずはそのライバルに向かう為に」
「そうだ、また頑張ろう」
とにかくまずはそれであった。何につけてもである。
「いいな、それで」
「はい、それでは」
「頑張ってくれ。またな」
部長の言葉を受けてだ。家に帰るとまた妻に対して言うのであった。しかし今度は言うことが多少ではあるが違っていたのだった。
「ゴーヤを多くしてくれ」
「今度はゴーヤなの」
「それとあの知能の低い猿みたいな顔のボクサー一家の写真を部屋にな」
飾るというのである。彼の嫌いなボクサーのことだ。三人兄弟で二番目が切腹だの何だのといい日本十二所の馬鹿さ加減を知らしめた恥知らずな一家である。
「飾る」
「またお仕事でなのね」
「そうだ。ゴーヤでなければセロリでも何でも苦い野菜ならいい」
「とにかくな」
「苦いものをなのね」
「それを頼む」
こう妻に話すのである。
「わかったな」
「最近苦いもの好きね」
事情をあえて聞かない妻はこう言うだけだった。
「舌が変わったの?」
「舌はそのままだ」
それは変わらないというのである。
「ただな」
「ただ?」
「忘れないようにする為だ」
だからだと。妻にはこう答えるだけだった。
「それでだ」
「忘れないね。何かよくわからないけれどわかったわ」
「そうか」
「あえて聞かないけれどね。まあとにかく」
妻はここで言った。こう。
「お仕事それで頑張ってね」
「仕事?」
「そうよ、お仕事頑張ってね」
優しい顔で夫に声をかける妻だった。その妻の言葉と顔を受けて八誠は有り難く思った。察してくれてそれで自分の為にしてくれる妻にである。だからこそ余計に意気をあげるのだった。自分の中で。
臥薪嘗胆 完
2009・12・22
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