第八章
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「まことですか」
「無礼なことを言うのう」
この言葉には不快感を示してきた。
「わしが一度でも嘘を言ったことがあるか」
「いえ」
すぐに首を横に振って否定した。言われてみればそのようなことは一度としてなかった。
「ないです」
「そうじゃろう。では信用できるな」
「はい」
あらためて頷いた。
「そのうえで言う。産むがよい」
「はい」
「ただし、これからも決してキヨを見捨てるでないぞ」
「はい」
これはもう言うまでもないことであった。そうした気持ちが微かでもあればどうしてわざわざ主にまで言おうと思うか。彼の決意は実に強いものであった。
「そして子も育てるのじゃ。よいな」
「勿論です」
彼は力強い声で応じた。こうして彼はキヨとの関係、そして二人の子のことを許された。そして今まで通り蔵の中で世話を続けるのであった。
日が経つにつれキヨの腹は大きくなっていく。それと共に胸も張ってきた。子が大きくなってきているのはもう誰が見てもわかることであった。
「寒うなってきましたね」
「はい」
キヨは彼に厚い冬用の服を着せられながら頷いた。
「子供が産まれる頃には。冬ですかね」
「そうですね」
彼はキヨの言葉に頷いた。頷きながら服を彼女に着せた。
「冬に産まれた子は。寒さにも強いでしょうか」
「それは聞いたことがあります」
彼はそれに応えた。
「俗にですけれど」
「そうですか」
「名前は。冬にちなんだものにしますか」
「冬に」
「はい。冬に産まれるのでしたら。そして寒さに強くなるように」
「いえ」
だがキヨはそれには首を横に振った。
「お嫌ですか」
「名前は。別のにして下さい」
「どの様なものに」
「私みたいに日を見ることのないようなことがないように。明るい名前を」
「明るい名前を」
「はい。お願いできますか」
「わかりました」
彼はそれを受けてこくり、と頷いた。
「それではそれも考えておきます」
「何が宜しいでしょうね」
「これから何があっても生きられる名前がいいですね」
彼はふとそう思った。
「何があっても」
「世の中ってやつは難儀なものでして」
少し苦笑いを浮かべた。
「何時どうなるかわかりませんから。いいことも悪いこともひっくるめてね」
「そういうものなのですか」
これは外の世界を一切知らないキヨにはわからないことであった。だが彼の言いたいことは朧ながらもわかることができた。
「ええ。ですからそれも踏まえて考えておきます」
「宜しくお願いしますね」
「わかりました」
そんな話からすぐのことであった。もう腹がかなり大きくなっていたキヨは遂に産気付いた。それを受けて家ではこっそりとだが産む用意が為された。
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