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蛭子
第七章
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 それでも彼女は言わずにはおれなかった。
「この身体は。私だけのものでしょうか」
「そうとばかりも言えないでしょう」
 キヨの心を穏やかにさせる為にこう述べた。
「他にも。こうした者はいると思いますよ」
 ふとここである話を思い出した。とある役者の話である。何でもかっては江戸で人気の役者だったらしい。名前は忘れてしまったがふとその役者の話を思い出した。たまたま新聞で見た話だがふと脳裏に浮かんだのである。これは好都合と言えば好都合であった。
「手や足がなくなっても。生きてきた人もいますし」
「けれどその人は最初は手や足もありましたよね」
「それは」
 その通りだったがそれを言ってしまうとどうにもならなかった。
「子供は親に似るといいますから。私も」
「お嬢様」
 彼はその言葉を聞いて顔を険しくさせた。
「そんなことはないです」
「私に子供が生まれても」
 だがキヨはその言葉に顔を暗くさせた。
「どうせ。達磨でしょうから」
「そんなことはないです」
 彼は沈み込むキヨを必死に励まそうとした。
「それは絶対にないです」
「言えるのですね」
「・・・・・・・・・」
 すぐには答えられなかった。確信はなかった。ただ言っただけであったから。
「・・・・・・はい」
 それでも言った。覚悟を決めてこう言葉を返した。
「お腹、気付いていますか」
「はい」
 キヨがどういった状態なのか彼も数日前からわかっていた。こくり、と頷く。
「私のお腹の中には」
「お嬢様」
 彼はあらためてキヨを見据えた。
「はい」
「旦那様と奥様は私が説得します」
「産めと仰るのですね」
「はい」
 彼は頷いた。
「是非共。お願いできますか」
「けれど」
 だがキヨはそれに戸惑いを見せた。
「手足のない女の子なぞ。所詮は」
「そんなことはありません」
 だが彼は自嘲気味になる彼女にこう言って元気付けた。
「お嬢様の御子は。そんなことは決して」
「ないと仰るのですね」
「当然です」
 彼は言い切った。
「ですから。是非」
「けど御父様と御母様が御許しになるか」
「それは何としても御許しになって頂きます」
 いざとなればキヨとお腹の中の子を連れてここを出るつもりだった。そして人知れず暮らすつもりであった。彼はそこまで覚悟を決めていたのだ。

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