第六章
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に手足がないのか。これは祟りかと真剣に思った」
この時代はまだそうした迷信が多く残っていた。だからこそこう思うのもまた当然のことであった。
「実は最初間引こうと思った」
「間引こうと」
「うむ」
主は頷いた。この当時望まぬ赤子が生まれた時にはその子を密かに殺すことがあった。口減らしであったり止むに止まれぬ事情があってのことである。遊郭においても子を堕ろすことは普通にあった。表向きは禁じられていてもどうしてもそうせざるを得ない者達もいるのである。そうしたことを専門とする医師達もいた。こういった者達のことは厠の貼り紙等に書かれていた。彼もそれは見たことがあり当然ながら知っていた。
街ではこうであった。そして村では間引きがあった。そうした望まれぬ命が消されるのはこの時代においても、いや何時でもあったのである。影の世界の話であった。
「じゃが。止めた」
「どうしてでしょうか」
「娘だからじゃ。他に理由があるか」
「いえ」
頷くしかなかった。理屈ではなかったがこれ以上にない説得力のある言葉であったからだ。
「じゃがとても外には出せなかった。それで」
「あの蔵の中へ」
「うむ」
やはり沈痛な顔で頷いた。
「不憫じゃが。そうするしかなかった」
「それで死産と届け出られたのですね」
「そうじゃ。じゃが村では噂になっておるのも知っておる」
「左様でしたか」
それを聞いてやはり、と思った。最初に村に来た時でそれはよくわかっていたことであった。あの老人の態度と言葉から容易にわかることであった。
「そして今まであそこで育ててきた。今までな」
「長い間だったのですね」
「その間。多くの者を雇ってきた。じゃが」
言葉の音色が変わった。沈痛なものから苦しい、痛そうな言葉になった。
「多くの者が。去っていってしまった」
主は苦しそうにそう述べた。
「狂ってな。無理もないことじゃ」
「はあ」
「じゃお主は違った。狂わずにいてくれた」
「いえ、それは」
たまたまだと思った。確かに最初に見た時は自分も気が狂うかと思ったしかしそうならずに済んだ。これは本当に運がよいことだと自分では思っていた。ただ、それを支えたのはやはり金の欲しさではあったのだが。それでもそのせいで狂わずに済んだのは自分でもよしとしたかった。
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