第二話 彼の思惑は彼女達の為に
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せずに秋斗は移動していた。
驚愕に支配されたのは牡丹だけでは無い。目の前で警戒していたはずの星でさえ、彼の急な肉薄に動くのが遅れた。
構えた槍のギリギリ横を滑るように来る秋斗に攻撃を加えるには引くか薙ぐしかないのだが、彼女の選択は……功でも守でも無く、後退であった。
流れる身体の動きで置き去りにされ、まさかりの如く担がれた長剣から大上段の大振り。後ろに飛び退きつつ支点を横にずらし、切っ先をどうにか回避した星は槍を持つ手にギシリと力が籠った。
ただ、彼の攻撃はそれで終わりでは無く、星は通常の理合い思考を投げ捨て、本能的に着地同時で槍を脚の横に思いきり突き立てた。
確認せずとも聞こえた甲高い金属音に寒気が起こった。無意識下の判断が無ければ足首から下は間違いなく飛んでいたのではないか、と。
――しかし彼にしては余りに力が……そういうことか。
カチリと星の中で何かが切り替わった。意識が戦場のモノへと変化していくも、ギリギリのラインで踏みとどまらせた。脳髄は冷や水を浴びせられたように凍え、自身を最高の状態へと促していく。
次いで、秋斗が行うは剣を手放しての下段回し蹴り。星は槍を引き抜きながら蝶のように舞い、彼の背へと最速の攻撃を突き出した。
布の裂かれる音がした。伝わる手ごたえは薄皮一枚。
――やはりこの程度は避けて来るか。
星は宙で槍を引きながら思わず舌打ちを一つ。
着地し、構えて見据えると……剣を拾った秋斗がゆらりと見据え返してきた。ほんの少し、楽しげに笑って。
自然と頬が緩む。たった一度の交差でどれだけ密な時間を過ごせたか。湧き上がる高揚感に、やはり自分は武人なのだと、星は改めて実感していた。
――次はどうしてくれようか。こちらから、いや、それとも後の先で合わせて突くか……
如何にして上回るか、それだけが星の思考を支配していく。向かい合って動かないまま、相手の呼吸も、筋肉の動きも、何一つ見逃すまいと意識を尖らせていった。しかし、
「バカーっ!」
突然大きな声が練兵場に響く。
牡丹の凛とした声が耳に入り、秋斗と星は……二人共が苦笑を漏らす。
「やれやれ、ここからがいい所だというのに」
「あー……刃を潰してない武器でやる戦いじゃあ無かったんだろうよ」
ゆっくりと武器を降ろした二人は、怒気が膨れ上がっている方を見やる。そこには口を引き結んで睨みつけている牡丹が無い胸を張って仁王立ちしていた。
「誰が殺し合いをしていいって言いましたか! バカが攻めるまでの攻撃はまだいいです! でもさっきのは両方ダメです! 特に……このバカ! 星の足首をぶった切るつもりだったんですか!?」
「……ごめんなさい」
「秋斗殿が謝ることではござらん。本気で来いと言ったのは私
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