第二話 彼の思惑は彼女達の為に
[1/15]
[8]前話 [1]次 最後
黒と白。男と女。練兵場にて真逆の二人が踊る。立会人として見ていた牡丹の目を釘付けにして。
風を貫いて繰り出される槍の速度は、殺気を纏う戦場でのモノ。賊を幾人も突き殺し、貫かれた事さえ気づかせぬその一撃を……男は避けるでなくいなしていた。
いや、いなしているとも違った。突いた後に必ず起こる引く動作に合わせて軽く弾き、そっと違和感を与える事によって最速の連撃をさせないようにしていた。
言うなれば後の先の取り合いである。
自分の動きにさえ合わせてくる秋斗の武を見て、次第に獰猛な笑みに変わっていく星。対して、秋斗は息を荒げるほど集中力を削っていた。
ピタリと、二人は一定の間合いで動きを止める。
星は柔らかく槍に両の手を添えて中段に構えたまま、秋斗は肩を弾ませながら目を細めて剣を片手持ちで水平に構えたまま。
「驚きましたぞ。よもや私の槍を躱すでなくずらすとは」
「こっちは、当たらんように、死に物狂いだ……お前さん、速すぎだろ」
「一撃も掠らせなかった方がよく言う。まあ、功に転じず守のままではそうなるでしょうな」
星は言いながら思考に潜る。彼は自分の攻めが苛烈過ぎて攻められなかった……などとは考えていない。実力を確かめられるようにと徐々に速さを上げて行ったのだが、初めから秋斗は一度も攻撃をしていなかった。
もっと彼の実力を見てみたい。
ふいと湧いたのはそんな衝動。一つ間違えば突かれるやもしれないというのに目付けをしっかりとして、死線の中に生を求めようとする戦い方は本来の戦い方では無いと確信していた。それに、女だからと刃を向けない……そんな侮辱をする彼で無いのもここ数日で理解している。
だから……星は彼に向かって穏やかに笑った。
「遠慮は要りませぬ。守るだけがあなたのしたい事、というわけでは無いのでしょう? 本気の攻めも見せてくだされ」
静かに、その言葉は秋斗の心を燃やすで無く冷やしていく。
攻めなければならないのは分かっていた。歴史上の武将相手に、守るだけだと負けるは必至なのも理解していた。
しかし秋斗はただ、星を観察してから攻めようと決めていたのだ。不意打ちで勝負を決めるなど面白くない……そんな星の気質から、相手と自分の実力を正確に把握する為に。
試合と言えども何を為したいかを忘れるな。それが星の言いたい事だと受け止め、秋斗は構えたままで三回、大きく深呼吸を行い、息を整えた。
「……ありがと、星。じゃあバカ、俺か星が危なくなったら止めてくれ。気ぃ抜くなよ? 星も、な」
「え? どういう事で――――」
急に話しかけられた牡丹は、返す途中で言葉を失った。
首を秋斗の方に回した一瞬の間に、彼が視界の中でブレたのだ。動く前は何かしらの予備動作があるはずなのに、一分の起こりも見
[8]前話 [1]次 最後
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ