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蛭子
第四章
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るのが滑稽ではあったが。
「毎日朝昼晩飯をやってくれ。あとは身体を拭いて服を替えてやる」
「はい」
「麻には歯を磨き夜には布団をしいてくれるようにな。そして時折髪も洗ってくれ」
「わかりました」
「道具はこちらで用意してある。その心配はしないでくれ」
 全て準備は整っているというわけであった。話を聞く限り主は娘としてあの女を見ているようであった。それを知ると少し安心した。
「あれはわしの娘じゃ」
「はい」
「じゃが。不憫な娘じゃ。折角美しく育っておるのに手も足もない」
 主は悲しそうに言った。
「あれは生えては来ぬ。何があってもな」
「はあ」
 彼は応えた。応えはしたが何を言うべきかわからなかった。
「生まれてからずっと蔵の中におる。生まれてからじゃ」
「ずっとですか」
「うむ」
 主は頷いた。
「今まであの姿を見て狂った者もおる」
 これには応えなかった。だがあの老人の言ったことがよくわかった。だから法外な程の金を貰い待遇もいいのだとわかった。わかってはいてもやはり信じられないものがあった。
「それでじゃ」
 主はあらためて彼に顔を向けてきた。そして問う。
「頼めるか。娘の世話を」
 その目は彼を見据えていた。彼がどう言うのかを見守っている目であった。
「どうじゃ」
「折角ですし」
 彼は答えた。
「御受けさせて頂いて宜しいでしょうか。ここまでわざわざ来ましたし」
「受けてくれるか」
 主はそれを聞いて目に微かに喜びの光を含ませた。
「はい」
 彼はまた答えた。
「私で宜しければ。何でも」
 決して慈善などではなかった。あくまで金、そして待遇がよかったから受けたのであった。名古屋に帰るだけどころかそれ以上の金はもう貰っていた。逃げようと思えば逃げられた。しかしここはもっと金が欲しかった。その為ならば手足のない少女の世話なぞ何ともないとも思ってはいた。どれだけ信じられないものを見てしまったとして。狂わなければよいと自分に言い聞かせていたのである。
「わかった」
 主はそこまで聞いて頷いた。
「では宜しく頼むぞ。娘の世話をな」
「はい」
 こうして彼は屋敷の一室を与えられあの蔵の中の娘の世話をすることとなった。そして屋敷に泊り込んで働くこととなったのであった。
 その部屋はかなりいい部屋であった。屋敷の離れにあったがそれでもかりいい部屋であった。彼はここで朝になると起こされ、そして食事を貰った。その食事も朝のものとは思えない程豪勢なものであった。
「凄い食事ですね」
 彼はそれを見てまずこう言った。白米に川魚を焼いたもの、茸の味噌汁、そして漬け物であった。白い飯はこの村ではそうそう食べられない筈であった。この時代軍隊に入るのは羨望の的であったがその理由の一つとして白い飯が好きなだ
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