第三章
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中の一つの前にまで来た。そして懐から取り出した鍵でその蔵の扉を開けた。
「来るがいい」
「はあ」
主はまた彼に来るように言った。彼はそれに従い中に入った。主は彼が入って来たのを確かめると懐からまたを取り出した。見ればそれは燭台であった。
それに火打石で火を点ける。それからまた中に入った。蔵の中はあちこちに多くのものが置かれていた。
見たところここには家宝やそういったものはなさそうであった。古い服やそういったものばかりのようだ。単なる物置のようであった。
主はその蔵の中央に来た。そしてそこで立ち止まると屈みはじめた。何か床をガサゴソとしていた。
「!?」
彼はそれを見て不思議に思った。この蔵の下に何があるのか、と思った。そしてまた不安になってきたのであった。
「よし」
主はそう言うと立ち上がった。そして彼の方へ顔を戻してきた。
「ではまた来てくれ」
「はあ」
増々不安が募ってきた。主は下へ降りて行く。それを見る限りどうやら階段を使っているようだ。彼はその下に何があるのか怖くなってきていた。
しかし主の言葉に逆らうことはできなかった。その言葉には他の者に対して絶対に服従を強いるようなそうした威圧感があった。彼はそれに対することはできなかった。そして言われるがまま主について階段を降りたのであった。
中は上よりもさらに暗いものであった。蝋燭のか弱い火ではあまり見えない。だがその微かな灯りを使って階段を降りる。一歩一歩少しずつ進んでいく。すると下の方に何かが蠢いたように見えた。
「!?」
だがそれは闇の中に消えてしまった。それは一瞬であるが赤いように見えた。それが何なのかとてもわかりはしなかった。彼の心の不安はさらに高まった。
主が降りてからすぐに彼も降りた。その中はうす寒く、そして何もないようであった。だが蝋燭に照らされた主はその何もない中に何かを見ているようであった。
「キヨ」
彼はふと呟いた。
「キヨ。起きているかい」
彼はまた呟いた。まるで何かを呼ぶような声であった。そしてその声には奇妙なことに愛おしささえあった。それまでのまるで押さえつけるような威圧感は弱まっていた。そしてそこに愛おしさが混ざっていたのである。実に不思議な声になっていた。
「何処にいるんだい?キヨ」
「御父様」
不意に闇の中から声がした。
「私はここです」
そしてその闇の中から何かが出て来た。彼はそれを見て思わず息を呑んでしまった。
「な・・・・・・」
その娘は這って主の前にやって来た。見れば灯りに照らされこの奥の暗い部屋もうっすらとであるが見えていた。
布団があり、そして箱が数個ある。見れば箪笥もある。そこから人が暮らしている部屋であるとわかった。そう、ここは今姿を現わした娘の部屋であったのだ。
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