第二章
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でもないことですじゃ」
どういうわけか急に素っ気無い様子になった。
「けれど。覚悟はしておいて下され」
そう言うと村の奥の方を指差した。
「あそこですじゃ」
「あそこ」
見れば指差した方に一際大きな家があった。他の家とは全く違い瓦に白い石垣や壁まであった。まるで小さな城である。幾つもある蔵がその家がかなり裕福であることを物語っていた。
「あそこがここの庄屋様の家ですじゃ」
「あそこなのですか」
「では行きなされ。御機嫌ような」
「御機嫌ようって」
また妙なことを言われたと思った。ここには奉公に来ただけなのにそうした今生の別れのようなことを言われるとは全く思っていなかったからだ。ましてや彼はこれからここに当分いるつもりであったのだ。余所者とはいえ仲良くしたいと思うのは当然のことであった。だがいきなりこう言われたのだ。戸惑わずにはいられなかった。
「全ては運がよかったらじゃ」
老人はまた言った。
「運がよかったらな。普通にまた会うこともできますじゃ」
「はあ」
ここまで言われるともう不安を禁じずにはいられなかった。彼は不安で心を満たしながら庄屋の屋敷の方へ進んでいった。
見れば山に囲まれているがわりかし豊かな村であった。川が多くそれはどれも堤で見事に灌漑されていた。田が広がっておりあぜ道にはあぜ豆があった。山奥とは思えない程豊かなのがよくわかった。
「こんな村で一体何があるのだろう」
彼はそう思った。あの屋敷、そして庄屋の家に何があるのか全くわからなかった。だが心の中に張り付いてしまった不安は拭い去ることができなかった。そして彼はそのまま屋敷へと進んでいった。
立派で大きな門を潜り、庭を進むと屋敷の玄関に辿り着いた。そこまでも結構な距離があった。やはり大きな家であった。
家に入ると中は奥が見えない程であった。何処までも大きな家であった。彼はそこに入るとまず人を呼んだ。
「御免下さい」
できるだけ大声で言った。
「どなたかおられませんか。求人を見てやって来ました」
「はい」
程無くして声が返ってきた。そして奥から一人の少女が出て来た。地味な濃い青地の着物を着ていた。その服から彼女がこの屋敷の女中であるとわかった。
「求人を見て来られたのですね」
「はい」
彼はその少女に対して頷いた。
「それでお話を御聞きしたいのですが。宜しいでしょうか」
「ええ、どうぞ」
彼女は頷いた。表情を変えるわけでもなくまるで能面の様な顔で頷いた。彼はそれを見て心の中に張り付いてあったその不安をさらに大きなものにさせた。
その少女に案内され先を進む。暗く長い廊下であった。屋敷の中とは思えない程長い。造り自体は立派なものであったがとても暗かった。そこはまるで牢のようであった。
暫く歩いてからあ
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