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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百二十九話 権威
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類が地球を住処としていたころ、古代ギリシャの政治家だった。彼が統治者であった時代のギリシャは外観は民主政だが内実は唯一人が支配する国と言われた”
と説明してくれた。なるほど、意味が分かった。
「珍しいケースでは有る。独裁者というのは独善的でも良いから揺るぎない信念と使命感、自己の正義を最大限に表現する能力、敵対者を自己の敵では無く社会の敵であると見做す主観の強さが必要だ」
「……なるほど」
ホアン委員長がコーヒーを一口飲んだ。
「しかし権威者にはそのような物は必要ない。何故なら周囲がその権威を認めるなら反対など起きないからだ。権威者が権力を求めた場合、もちろんその権力を正しく行使する能力が必要だがごく自然に独裁が成立している可能性が有る」
「……」
ヤン提督が深刻そうな表情になった。ホアン委員長がそんなヤン提督を見てクスッと笑った。
「しかし、彼は本当に権威を身に着けたのだろうか? 疑問ではあるな」
「疑問ですか」
「うむ、確かに彼の影響力は強い。しかしそれは彼の能力が必要とされているだけともいえる。今、同盟は帝国とともに新たな秩序を作ろうとしている、それ故かもしれない。彼ほど明確なビジョンを持っている人間はいないからね」
「なるほど」
頷くヤン提督を見てホアン委員長が軽く笑い声を上げた。
「秩序を作り終えれば影響力は縮小、或いは消滅する可能性も有るだろう。それに彼は権力を求めていない。多分、多少影響力の有る一政治家、それで終わるのではないかと私は思うね」
「私は心配し過ぎなのでしょうか?」
「君がヴァレンシュタイン委員長に負い目を持っているならそれが不安を増大させているとも考えられる。まあ余り深刻に考えないことだ」
ホアン委員長が“コーヒーをもう一杯貰おうか”と言った。
宇宙歴 796年 7月 15日 最高評議会ビル エーリッヒ・ヴァレンシュタイン
最高評議会ビルの廊下を議長の執務室に向かって歩く。近付くにつれて徐々に警備が厳しくなっていった。執務室の前の待合室には陳情者が十人近くいた。どんな時代でも同じだな、権力者に近付く事が利益に直接つながる。俺が来訪を受け付けに伝えると直ぐに執務室の中に通された。陳情者が恨めしそうな表情で俺を見る。結構待っているのだろう、恨むなら俺じゃなくトリューニヒトにしてくれ。
部屋に入るとトリューニヒトが満面の笑みで俺を迎えてくれた。御機嫌なのも無理は無い。トリューニヒト政権に対する支持率は七十パーセントを超え八十パーセントに迫る勢いだ。近年稀に見る高い支持率だと言われている。まあフェザーンでの戦争は勝ったし愛国委員会のクーデターも潰した。捕虜交換を実施して首脳会談も成功した。支持率が高いのもおかしくは無い。我が世の春だな。後は帝国との和平条約
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