MR編
百三十五話 母と娘
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の親はきっちりと義務を果たしていて、彼女は親に特に遺恨は無いそうだ。だだ涼人の場合……父親が早くから居なくなった上に教育費などの支払いが不定期で、結果的に母親の労働量が増え、倒れた事もあり、お世辞にも父親に良い印象はないらしい。
そして母親だが、ご存知の通り美幸の母親……麻野真理は現在も超が付くバリバリの働くお母さんとして日々仕事をこなしている。
詩乃の母親である浅田紀乃は健在だが、彼女は精神的に重大な疾患を患って居て、とてもではないが働ける状態とは言い難い。
涼人の母親である桐ヶ谷遥は、前述の理由から、既にこの世にいない。
そんな彼ら三人(四人)が集まり共に育ったのが、福島にある詩乃の祖父母の家だったわけだ。福島でも端の方にあるその小さな田舎街に、明日奈も一度だけ行ったことが有るが、今もなお木造建築と塀によって成る少しばかりレトロチックな迷路のような住宅街が連なっていて、とても安らぎのある街並みだった事を良く覚えている。
「……やっぱり、私って甘えてるのかな……?」
「え?」
少し沈んだ声で、明日奈は言った。
「私、リョウとかサチ……母さんみたいに、世の中の厳しさとか、大変さとかに、うと過ぎるのかな……?」
明日奈は生まれてこの方、少なくとも金銭的、物質的にどうしようも無い不自由と言うのを体験した経験に乏しい。
そう言う点から見れば、明日奈が生まれた家は絶対的に恵まれていて、普通に暮らしていれば、苦労する理由自体がそもそも存在しなかったからだ。
親に守られて育った、温室育ちの箱入り娘。言ってしまえば、其れが自分だ。そんな自分が今更何の根拠も無く親の思想に逆らった言葉で彼等を納得させようとした所で……
「だから、母さんにとっての私の言葉は取るに足らなくなっちゃうのかな……?」
「……うーん」
少し考え込むように美幸は押し黙る。しかしやがて、首を横に振りながら顔を上げた。
「取るに足らない……なんてこと、お母さんは思って無いんじゃないかな……?」
「そうかな……でも……」
実際、明日奈の言葉に、母が耳を傾けようとしてくれた事は、その気配すら明日奈には感じ取れた事が無い。
「お母さんが折れてくれないのはきっと、明日奈の幸せの為にはまだ、明日奈の言葉じゃ、お母さんの言葉以上の成果が出せないって確信しちゃってるからなんだと思うよ?」
「……私の、幸せ……」
其れは、母が自分と議論する時、口癖のように口にする言葉だった。ただ明日奈はその言葉を、言葉通りの意味として受け取った事は、SAOから帰還して以来殆ど無い。なぜなら……
何故なら彼女が明日奈の為だと言って押しつけて来る方針は、その全てがどうしても最終的に母自身のキャリアの為の者であると思えて仕方が無かったからだ。
「そうかな……?母さんは、
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