MR編
百三十五話 母と娘
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そんな事を言っていた。
ちなみにだが、美幸は明日奈と比べると、わりに値段を気にするタイプの人間であったりする。異常、と言うほどではないが、育った環境もあるせいか、明日奈より少し金銭的な感覚は厳しい。
勿論、そう言った点を明日奈は欠点として評価しているのではない。と言うより……
『寧ろ私もそう言う感覚は身につけた方が良いんだろうなぁ……』
何れ一人の男性の妻を目指している身としては。そんな事を考えてから、明日奈は内心で苦笑した。
『でも……それも……』
「アスナ?」
思考の海に沈みかけた意識を、柔らかな声が浮上させた。前を見ると、美幸は何処か心配そうな顔で自分を見ている。
「大丈夫?」
「あ、うん平気……でも、ないかな」
言いかけた言葉を呑みこんで、苦笑しながら明日奈は言った。
「ねぇ、サチ、もし私がみんなと一緒に居られなくなるって言ったら、どうする?」
「っ!!?」
ガタっ!と音を立てて、美幸が半身立ち上がり掛けた。普段基本的に落ち着いた表情を見せる事の方が多い彼女の、その余りにも珍しい反応に、明日奈は一瞬瞠目する。
そうこうしている一瞬の内に、美幸の顔は真っ青になって居て、潤んだ瞳が小さく揺れていた、今にも泣きだしそうにすら見える。
「…………!」
「あ……え、えっと……!ご、ごめんね変な事言って!すぐにって言う訳じゃないの!その、ちょっと学校を変えなくちゃいけ無くなりそうで……!」
「……あ」
慌てて明日奈がそう言うと、美幸はまるで気が抜けたようにストン。と椅子に腰を下ろす。
「ご、ごめん。いきなりこんな事言って……」
「…………」
「……サチ?」
焦りつつ謝ってしかし全く反応の無い美幸に、明日奈は一つ、名前を呼び、加えて彼女の顔を見る。
「……ッ!?」
そうして、彼女は戦慄した。目の前に居る彼女の瞳から、恐ろしく深く暗い何かが、無意識の内に感じ取れたからだ。慌てて彼女に触れようとして、しかしその前に、美幸の瞳はハッとしたようにもとの光を取り戻した。
「あ、ご、ごめんね!急だったからびっくりしちゃって……でも……どうしたの?急に……」
「あ、う、うん……」
手のひらをパタパタと振りながら言う彼女に、明日奈は少し違和感を覚えつつも曖昧に頷く。
今、何か見るべきではなかったような、けれど重大な物を見たような気がしたが、同時に、それをこれ以上追求してはならないような気もした。
「……母さんがね?この前違う学校のパンフレット渡して、転入届書きなさい。って」
「そんな……どうして急に……?」
「元々、あの学校の事、あんまり良くは思ってなかったみたい。ほら、ウチの学校って帰還者用のカウンセリングプログラムとか、有るでしょう?ああ言うの見て、……収容施設だーって」
「あ
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