MR編
百三十五話 母と娘
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う若さで付いた母。結城京子は、その冷厳で鋭い絶望。そして手腕を用いて、その地位付くまでに何人もの大学内のライバルを蹴落としてきた。自らが築いて来たそのキャリアに当然ながら一定の自負心を持つ彼女が、娘である明日奈に対してもまた積み上げられる最大限のキャリアを望んだのは、ある意味では当然の事だったと言えるだろう。何故なら彼女にとっての理想的な女性像は当然自らの目指す先に有る女性像で有り、其れは自らが築いた物かもしくはそれ以上のキャリアの上に立つ物意外に有りえないからだ。
実際の所、SAOに囚われるまでの結城明日奈は母が示すその道筋が間違った者であるとは微塵も思わなかったし、それらに反抗しようと考える事も無かった。世間一般的に人としての経ち位置を俯瞰した時、母の言う生き方が人として一つの価値を作りあげる物であることもまた、理解できない訳ではない。
しかし、SAOで自らの手によって自らの生きてゆく道を切り開く剣士としての自分を手に入れ、そうしてこの世界に戻って来た時、それまでの自分を振りかえって感じた物は、結城明日奈と言う外殻を持った中身の無い空虚な操り人形が歩んだ驚くほど虚しい人生の足跡だけで、其処に至ってようやく明日奈は、今の自分にとってその道がけして好ましい物ではない事を理解したのだ。
学校、生活、友人ですら、母に制御、管理されたそれまでの生活は、一種の管理世界の縮図である。そんな世界を生きる事は、もう剣士としての自分を知った明日奈に出来る筈もない。故に、生まれて初めて明日奈は母と対立した。他でも無い、自らが自らの意思で選び、自らの手で歩む理想世界を掴み取る為に。
しかし……その徹底的な自己管理世界を自らの意思によって生きて来た結城京子と言う女性の人生の重みは。明日奈のそんなささやかな決意の剣を容易くへし折ってしまいそうなほど、硬く、重い物だった。
母の言う事は、原則として全て論理的で正しい。実際、彼女の言う通り人生を過ごす事が出来れば、その安定性や社会的地位は間違いなく保障されている。対して、明日奈の目指したい未来は未だ不明瞭で、そもそも己を何者にしたいのかも定まっていない。唯不確定な理想像があるだけで、現実的に母の言葉を返せるだけの重みも、強さも無かった。
そして強さが無いのは言葉だけでは無い。明日奈自身の心にも、母の言葉をきっぱりと拒否するだけの強さが無かった。そうして徐々に明日奈はその身を母の作りだした十字架に絡め取られ、今はもう、完全にその心の磔に囚われ掛けている。
今の学校を、強制的に転校させられる。と言う形で。
────
「……?」
不意に、アスナの持っていた携帯端末から、着信を知らせる音声が鳴り響いた。恐らく母だ。そう思った明日奈は、携帯端末の画面を見ることすら嫌
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