第十章
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宜しければ御覧になって下さいませ」
そう言って赤子を産湯で洗った後で抱えて主に見せた。
「この通りでございます」
「おお」
それを見た主の顔が喜びに包まれた。今まで厳しい顔を崩さなかった主が見せるはじめての笑顔であった。
「まことじゃ。まことに手も足もあるわ」
彼は我がことのように喜んでいた。
「本当のことじゃな」
「はい」
「手も足もあるのじゃ。キヨよ、でかした」
「有り難うございます」
キヨは疲れきったものでこそあるが微笑みを浮かべて父に応えた。
「私が・・・・・・ちゃんと赤子を産むことができたのですね」
「その通りじゃ」
主はまた言った。
「無事な。おなごじゃったぞ」
「おなごですか」
「御前にそっくりの顔の娘じゃ。ようやった」
「はい」
「無事産まれた。後はわし等に任せるがいい」
「はい。お願いします」
この身体では子を育てることはできない。それはわかっていた。だから彼女は両親に自分の子供を任せることにしたのである。そして彼にも。
「お願いしますね」
「お任せ下さい」
彼は優しげな笑みのまま応えた。
「無事。育てますから」
「お願いします。そして」
彼女はまた問うた。
「名は。何にしましょうか」
「あかねというのはどうでしょうか」
「あかね」
「はい。日の光を見て育つ娘ですから」
彼は言った。
「そして明るく育つように。どうでしょうか」
「いい名ですね」
キヨはその名を聞いて微笑みを浮かべた。
「とても。それを聞いていると私まで明るくなってきました」
「左様ですか」
「ではあかねのこと。宜しく頼みましたよ」
「はい」
「私達の娘を」
「私達の娘を」
こうして今一人の娘が産まれたのであった。手足のない日の光を知らぬ蛭子が産んだ娘は日の下に育つ娘であった。これは本当にあった話であった。
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