6部分:第六章
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「何なら他の編集部の人間にも今見せてもいいさ」
啖呵になっていた。実直な彼は啖呵なぞ切らないがこの時ばかりは違っていた。切らせるものが確かにあったのである。だからこそ今言うのだ。
「けれど皆同じことを言うね」
「そうですか」
「わかったね。君にはすぐに描いてもらう」
また言った。
「そしてその漫画を世の中に広めること。いいね」
「わかりました」
ようやくといった感じで氏家の言葉が強くなった。
「それじゃあすぐにも」
「うん、頼むよ」
峰崎も笑っていた。満面に笑みを浮かべている。その笑みで氏家を見ている。それと同時に彼の顔にまた別のものを見ていたのであった。
峰崎は一旦氏家を帰らせた後で編集部に戻った。そこで編集長のデスクに戻る前にまずは手近にいる巴に声をかけてきた。
「ああ、巴君」
「何ですか、編集長」
巴は丁度写植を終えたところであった。その顔で彼を見る。
「この漫画だけれどね」
「ああ、持ち込み君のですね」
「そうだ、読んでくれないかな」
そう彼に声をかけてきた。
「よかったらね」
「ええ、まあ今時間ありますし」
写植を終えたところでほっとしていた。それで穏やかな様子で応えた。
「それじゃあ」
「はい」
峰崎のところまで来てその漫画を立って受ける。そのまま一枚一枚読みはじめる。
読んでいくうちに彼の表情が一変する。読み終えて驚愕した顔で峰崎に問うのであった。
「あの、編集長」
「何かな」
「これって持ち込み君のですよね」
「そうだ」
彼は巴に対してこくりと頷いてみせた。
「それがだよ」
「いや、これって」
驚きをまだ消せない。原稿をその手に驚きを見せ続けている。
「持ち込みとかそういうレベルじゃないですよ。こんなの描けるのってそうは」
「しかも最初に描いたものらしい」
そのことも言ってきた。
「信じられるか?」
「嘘にしか思えませんね」
首を傾げて述べる。
「これが最初って」
「それでだ」
ここで言ってきた。
「野崎先生これから青年誌の方に行くんだったな」
「ああ、そうですね」
それを言われてすぐに思い出す。
「あっちの方一本で暫くいきたいって言ってましたね」
「じゃあその枠に入れよう」
峰崎は言った。
「この漫画な」
「いきなりですか?」
「当然会議で決める」
まずはこれは絶対だった。編集長の独断というわけにはいかない。
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