魔石の時代
第一章
始まりの夜1
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たのは、すずかだった。
「あ、なるほど! それなら、翠屋も安泰ね」
「いや、勝手に納得されても困るんだが……」
ポンと手を打ったアリサに、光が本当に困ったように呻いた。
「じゃあ、どうするの? 他に何かやりたい事がある訳?」
「やりたい事、か……」
光は、少しだけ笑った。多分、笑ったのだろう。何かが違う気もしたけれど。
「まぁ、やらなければならない事ならあるな」
「やらなければならないこと?」
不思議な言い回しだった。ほんの少しの――大きな違い。
「ああ。大切な……大切な仲間との約束なんだ」
言って、光は自分の手を見つめた。いつも包帯で包まれた、右の手を。
「それを果たすまでは、死んでも死にきれない」
5
(やらなければならないこと、かぁ……)
良くないとは思いつつも、午後の授業はあまり頭に入らなかった。ぼんやりと、自分の
右手を見つめる。光の右手は、いつも包帯で包まれていた。それは初めて会った時から変
わらないし、私が知る限り外しているのを見た事はない。料理を作る時でさえ、外すのではなく薄いビニール手袋を使っているほどだ。理由は良く分からない。ただ、両親が言うには、酷い傷があるかららしい。それは、嘘ではないと思う。以前一度だけ、その掌に奇妙な形をした傷跡のようなものがあるのを見た事がある。
やらなければならない事がある。そう告げた時、光は多分その傷を見つめていたのだ。
けれど、何でそんなものを見つめていたのだろう。そんな疑問が浮かんだ。
光が私達の家族になる前の事を、私は良く知らない。訊いた事がない訳ではないが、そ
の時も曖昧に誤魔化されてしまった。ただ、最初の頃は右腕に触れられるのを随分と嫌
がっていたのを覚えている。いや、違うか。光自身が右腕で私達に触れる事を躊躇ってい
たのだ。今でも手をつなぐ時は、左手を使うほどに。
(命の恩人なんだよね……)
私が知る限り、最初に光の右腕に触れたのは、お母さんだった。お父さんを救ってくれ
た、大切な腕だと。お父さんにとって光は命の恩人である。それは私も知っていた。それが切っ掛けで、光は私達の家族になったのだから。
けれど、一体どうやって光がお父さんの命を救ったのかは知らない。ちょっとした裏技だよ――光はそう言っていたが。
(その裏技と右腕が、何か関係あるのかなぁ?)
それが、やらなければならないこととも。それが何なのか分からないけれど。でも、何
故だか少し不安になる。
「――は! なのはってば!」
「きゃ!?」
急に肩を揺さぶられ、小さく悲鳴を上げる。一体何が起こったのか。
「もう! さっきから呼んでるのに、ボーっとして!」
「大丈夫? ひょっとして具合悪い?」
腕を組み、アリサが私を睨んでいる。どうやら考え
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