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その魂に祝福を
魔石の時代
第一章
始まりの夜1
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え、今は誰もそんな事
を気にはしなかった。
 ……――
 青い空に、柔らかな日差し。春の匂いのする優しい風。そして、美味しいお弁当!
「幸せなの」
 自分のお弁当箱と、大きめのタッパーを見つめ、思わず呟いた。
「……まぁ、色気より食い気のうちは士郎もしばらく安心か」
 途端、光が呆れたように呻いた。光は時々……というか、割と良くお父さん達の事を名前で呼ぶ事がある。本人が言うには、まだ慣れていないのだとか。と、それはともかく。
「だって幸せなの!」
「いや、そんな力いっぱい断言されても……。まぁ、作った甲斐はあるが」
「まぁまぁ。なのはが食いしん坊なのは今に始まったことじゃないでしょ?」
「それは否定しないが」
 アリサの言葉に、光はあっさりと頷いた。そこは否定してほしい。だって、半分は光の
ご飯が美味しいせいなのだから。と、そんな事を思っていると。
「だが、お前もまずは涎拭こうな」
「なっ!?」
 にやりとして光が言う。慌ててアリサが口元に手をあてるが――
「垂れてないじゃない!」
「そうだったか?」
 見間違えたようだ。白々しく光が言う。
「ああもう、ホントにアンタって奴はぁぁああああっ!」
 地団駄を踏みながら、アリサが叫ぶ。この二人はいつもこんな調子だった。とはいえ、
別に仲が悪い訳ではない。今朝、光は身内にしか料理は作らないと言っていたけれど、あれはちょっとだけウソが混じっている。だって、私たちが誰かの家で遊ぶ時、光はいつも差し入れを持たせてくれるのだから。それにはもちろん、アリサの好きなお菓子も多く含まれていた。光は彼女が好きなものを、ちゃんと知っているのだ。口にはしないけれど、アリサも気付いている。
「まぁまぁ。二人とも、それくらいで。ね?」
 光とアリサのじゃれ合いを仲裁するのは、すずかだった。それもいつもの事だ。
「そうだな。そろそろ食事にしよう」
 光が頷き、そのままタッパーのふたを開ける。そこには、卵焼きが三列並んでいた。
「一人一列ずつだ。量は充分あるはずだから、喧嘩しないで分けてくれよ」
 その言葉に、三人揃って頷く。みんなで食べればもっと美味しい事は分かっていた。
 ……――
 幸せなひと時はすぐに通り過ぎてしまう。とはいえ、その余韻まではなくならない。
 すっかり空っぽになった弁当箱とタッパーを片付けてから、私たちはのんびりと会話を
楽しんでいた。今日の話題は、将来の夢について。宿題――という訳ではないが、進級を
機に考えてみるようにと先生から言われていた。
「それで、アンタはどうするの?」
 一通り話してから、最後にアリサが光へと問いかける。
「俺か? さて、どうしたものかな」
 はぐらかすように光が呟く。
「やっぱり翠屋さんを継ぐの?」
 続けて訊い
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