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その魂に祝福を
魔石の時代
第一章
始まりの夜1
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麗な宝石が輝いている。その宝石が、僅かに動いていた。
「大変! 早く病院に運ばなくちゃ!」
 まだ生きている。それに気付くと同時、追いついてきたアリサが叫ぶ。私がそれに頷く
頃には、すずかはすでに迷いも無く、そのフェレットを抱き上げていた。その瞬間、僅か
に開かれた緑色の瞳が、真っ直ぐに私を見つめた気がした。




「何か嫌な予感がするな」
 縁起でもない。呻きながら、夕暮れの街を進む。一見すれば、街はいつも通りだった。
だが、違う。何かが起こりつつある。何が起こっているのか、誰がそれを引き起こしたの
か。それを把握し、対処する必要がある。……妹が巻き込まれる前に。
 海鳴市に何者かが侵入した。数日前からそれは把握していたし、その日から巡回を続け
ている。もっとも、その正体に見当がついたのは、昨日の夜だったが。
 同業者。つまり、侵入者は魔法使いだ。いや……厳密に言えば、少し違う。俺とではな
く、『彼女』と同じだ。さて、『彼女』は自分の事を何と言ったか。
(魔導師、だったな)
 もっとも、『彼女』が積極的にそれを名乗る事も無かったはずだ。かつての自分は、い
ずれその理由を思い知る事になる訳だが……その悪夢のような記憶をうんざりしながら追
い払う。あんな性質の悪い記憶を思い出すのは一度で充分だ。
 何であれ、所詮は同業者だと言う事だ。それなら、遠慮は要るまい。その覚悟を決め街
を歩く――が、今日も空振りに終わりそうだ。沈みきった夕陽を見送り呻く。
「いったん帰った方がいいか。なのはに嗅ぎつけられたりすれば、本末転倒だ」
 幸い、今のところ勘づいた様子はない。だが、あの娘は素直で優しい。切っ掛けさえあ
れば、こちら側に踏み込んできてしまうかも知れない。あの子には、それだけの素質がある。だからこそ、それだけは避けなければならなかった。
「も〜! 光お兄ちゃん、帰ってくるの遅いよ!」
 家に帰ると、待ち構えていたなのはにいきなり文句を言われた。
「いや、掃除当番だって言っただろ?」
 嘘ではない。他の連中を追い払って、一人で済ませてきた。魔法を使って、だが。
「う〜…。でも、不安だったんだから」
 はて。一体何があったのか。問いかけると、妹はこう言った。
「あのね。帰りに怪我をしたフェレットを見つけたの」
 酷い怪我をしていて、すずか達と慌てて病院に連れていったらしい。幸い、命に別状は
なかったようだ。もっとも、そうでなかったとして。例えその場に居合わせていたとして
も、なのはの前で魔法を使う気などないが。……陰でこっそり使ったかもしれないが。
 途端に、相棒の馬鹿笑いが聞こえた気がした。なのはの頭を撫でつつ、周囲を見回す。
もっとも、妹が傍にいる限り、相棒が姿を見せる事などあり得ないが。
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