魔石の時代
第一章
始まりの夜1
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1
痛みに包まれ、眼が覚めた。たちまち後悔する。
闇に塗れた視界。焼けた肉の匂い。炎の気配。閉じ込められ、焼き殺されつつあるという感覚。何より最悪なのは、そんな状況下で身動きが取れないというこの状況。
目覚めて最初に感じたのは死の恐怖だった。そして、自分が何者であるかを思い出す。そして、力を取り戻した。異能の力。血濡れた力。呪われた力。
……そして、恩師から受け継ぎ、絶望から自分を救った力。
積もった瓦礫を払いのけ、空を見上げる。皮肉なくらいに澄んだ青空だった。
俺は、誰だ……?――最初に生じたのは、そんな疑問だった。
魔法使い。正義のための人殺し。思い出せたのは、それだけだった。記憶が失われている。自分の名前すら思い出せない。僅かに残された記憶も酷く曖昧だ。一体どこまでが自分の記憶なのか、それさえもはっきりしない。
自分は一体誰なのか。何よりも重要なその疑問はあえて無視して、周りを見回す。そこは地獄の跡だった。木造だが、かなりの大きさがあったらしい屋敷はほぼ原形をとどめていない。周りにはかつて人間であったらしい酷く焼け焦げた肉片。
魔物に蹂躙されたような跡だった。生存者を捜そうとするだけ無駄だろう。
おそらく、だが。
自分も生存者ではなかったのだろう。根拠もなく、そう確信した。
とはいえ、負った傷は大したものではない。……深刻な傷だが、自分にとっては致命傷ではない。理由は分からないが、確信していた。おそらく、背中に被さっていた――この子どもを庇った誰かのお陰だろう。その誰かには悪いが、そのお陰でこの器を……原形を留めた質のいい死体を手に入れる事が出来た。
自分が這い出した穴に向かい、静かに黙祷を捧げる。そして、その地を後にした。
――……
どうやら、この世界はずいぶんと平和らしい――街を彷徨い、呻く。ようやく地獄から抜け出した自分は、酷く発展したその街の中で途方に暮れていた。
せめてもの救いは、この器の記憶なのか、それが何なのか分かる事だろう。この世界の一般的な常識は、どうにか理解する事が出来た。
もちろん、それとて完全ではない。勝手の違うこの世界で、どうやって生きていくべきかを悩む程度には、情報に欠落がある。だか、それでも思い出した――忘れていない事がある。名前すら忘れ去っても、それだけは覚えていた。
自分にはやらなければならない事がある。だが、それが何なのかが思い出せない。漠然とした感覚はあっても、はっきりと思い出す事は出来ない。思い出せない事に酷く焦りを覚えた。
相棒――その焦りの中で自分はふと呟いていた。
そうだ。自分には相棒がいる――それを、まず最初に取り戻さなければならない。
……――
いくら平和に見えても、所詮は人の世と言う事だろう。目覚めてから数ヶ月
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