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その魂に祝福を
魔石の時代
序章
ある家族の肖像
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われば俺は二度と姿を見せない」
 はっきりと眼を開くと、病室には妻の他にもう一人の人影があった。
「君は……」
 赤い文様が刻まれた黒い大きな外套。それには見覚えがあった。
 妹から託されたあの少年が包まれていたものだ。
「相棒……御神美沙斗はどこにいる?」
 鼻先まで覆うフードの向こうから、その少年は、酷く大人びた口調で問いかけてきた。
 妹ならここにはいない。何とかそう答えると、その子は重ねて聞いてきた。
「どこにいる?」
 追いかける気か?――自分も、その質問に訊き返す。
「当たり前だ」
 何の迷いも無かった。そのまま、その子は最後の質問を投げかけてきた。
「相棒は今、どこにいる?」
 分からない。君を預けてどこかに消えてしまった。告げると、舌打ちが聞こえた。
「あの薄情者め……」
 忌々しそうに毒づいてから――その子は自嘲した。
「だが、この様じゃ仕方がないか……」
 言われてようやく思い出した。その子は命に関わるほど酷い火傷を負っていたはずだ。
「火傷の事で、今のアンタにとやかく言われる筋合いはないな」
 その子は笑ったようだった。乾いた皮肉と共に。
「まぁ、いい。自分で探す。邪魔をしたな」
 待ってくれ!――病室を出て行こうとする少年に向けて、精一杯の叫び声をあげる。
 呼び止めてから、呻く。俺の荷物は、どこにある?
「今すぐ届けてくれるって」
 親友に連絡を入れてくれた妻が言った。
 実際、すぐに荷物は届いた。さすがに親友は忙しいらしく、届けてくれたのは別の人間だったが。それは仕方がない。死人に付き合っていられるほど彼は暇な身分ではない。
「見舞いならあとでゆっくり受ければいい」
 それまで無言で部屋の片隅に座っていた少年が言った。引き止めた事で、少し苛立っているのかもしれない。
 その荷物を開けてくれ。鞄の一つを指差し、妻に頼む。だが、腕が酷く震えていたせいだろう。妻が開けたのは自分が示した鞄ではなく、その隣の鞄だった。あるいは、それこそが運命とやらの誘いだったのかもしれないが。
『だからテメエはもっと丁重に扱えって言ってるだろうが、このバカ野郎!』
 その罵声に、妻の悲鳴が重なる。そう言えば、その本の事を忘れていた。
『ったく……って、お?』
 その本は、少年を見て眼を瞬かせ――そして、言った。
『間違いねえ。久しぶりだな、相棒。オレの事覚えてるか?』




「思い出した」
 その本を数ページめくってから、その子は呟いた。
『そいつはよかった。それじゃ、改めて。久しぶりだな、相棒』
「ああ、久しぶりだな。リブロム」
 どうやら、本当にその子は、その本――『偽典リブロム』の相棒だったらしい。
『つーか、テメエ。今までどこほっつき歩いていやがったんだ? そ
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