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漫画無頼
3部分:第三章
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彼はさらに漫画への想いを深くしていった。だからこそ余計にわからなくなってきているのかも知れないと思ってもいた。
「それで今の俺は」
「迷ったのね」
「何とかするさ」
 こうは言う。
「それでも。わからないのは当分続くんだろうな」
「暫く漫画から離れてみたら?」
「いや」
 しかしそれは首を横に振ってすぐに否定した。
「そのつもりはない。俺にとって漫画は」
「全てなのね」
「悪いな、何か無頼で」
「いいわよ。男ってそんなのだから」
 美恵子はそんな夫を温かく包む言葉と笑みを送った。
「何かを見ていないと駄目なのよね。やっぱり」
「親父に言われたさ」
 もう死んで随分経つ自分の父のことを思い出した。すると懐かしいような寂しいような気持ちになる。その気持ちの中で語るのだった。
「男はずっと夢を見ていろって。子供達にも言ってるしな」
「女は?」
「女もだ」
 実際にそういう漫画を漫画家と一緒に作ってきた。その時主人公の友人のモデルにされた。それを単行本ではっきりと書かれて赤面したこともある。
「人間は夢を見ていないとな。やっぱり」
「そんなあなただからいいのよ」
 少し臭い言葉なのかもと思ったがそれでも言った。
「私もね。後ろは任せて」
「済まないな」
「あなたはどんどん先に行く人だから。だからね」
「わかった。じゃあずっと前に行くさ」
 しっかりとそれを見定めた。
「漫画って何かって見極める為にな」
「わかったわ。それで今夜はどうするの?」
「もう寝るさ。遅いしな」
 時計はとうの昔に十二時を回っていた。もうかなりいい時間だった。
「これでな」
「そう。じゃあ寝ましょう」
「ああ。子供達はもう寝たよな」
「もう遅いわよ。当たり前よ」
「いや、最近はずっと起きてる子供もいるからな」
 笑ってこう述べる。
「わからないぞ」
「それは街での話でしょ」
 夫の言葉に苦笑いで返す。
「家の中と一緒にしないの。いいわね」
「ああ」
 そんな話をしながら雑誌を片付けて休みに入る。次の日彼はスーツを着て出勤に向かう。その時駅のキヨスクで自分の雑誌をちらりと見た。

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