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シルエットライフ
受け取った女の子の話
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近は異常な寒さにより、どれだけ厚着をしても寒かった。
まるで、猛暑によってどこかに行ってしまった涼しさを、目に見えない何者かが取り戻そうとしているかのようだ。

周囲には、十数人はいるであろう生徒が入り乱れていた。
けたたましい笑い声や、話し声、先程私が発した溜息、そういった様々な声が耳についた。
ロッカーを開け、少し黒ずんだ上履きを掴もうと手を突っ込む。
すると、ずるりと、生き物が舌を出すみたいに上履きの下から薄い青色の紙切れのような物が出てきた。

ラブレターかな、と期待して、すぐにその期待を掻き消す。
そんな古典的なこと、ある筈がない。口許を歪め、鼻で笑った。
くだらない期待をした自分への呆れと、諦めが混じった笑みだった。

今まで、そんな華やかな出来事とは縁があった試しがなかった。
あるとすれば、せいぜい、中学生の頃に、愛の告白を見た目の悪さを理由に、手酷く拒絶された程度だ。

後ろでうずくまるようにしながらロッカーの上履きを出そうとしていた男子生徒の顔が引きつる。
首を少し回し、その男子生徒をちらと見やるが、すぐに目を離す。あまりかっこよくなかった。
見た目も地味で、典型的ないじめられっ子、といった印象を受けた。
髪は中途半端な長さで、目は細い。顔の骨格も粗削りだ。
ああいった人間があることないことを吹聴したところで、結果は知れている。
警戒する必要も、すり寄る必要も、愛想よくする必要も、今はない。
ロッカーの中に取り残された紙切れに視線を戻した。

恐らく、この紙切れはロッカーの扉の下にある隙間から差し込まれたのだろう、と考える。
誰かが、何か要件を伝える為に、ここに手紙を入れた、と考えるのが自然だ。

紙は二重になっているようだった。
表には「南郁子(みなみゆうこ)様」と書かれている。なによ、随分丁寧じゃない。これはもしかするとよ、郁子。

好奇心がむくむくと胸の中で膨れ上がるのを感じた。
一体、この手紙には何が書かれているのだろうか。

中の紙を破かないように、端っこから丁寧に破った。
白く味気ない紙が顔を出す。

その紙を引っ張り出してから、目を見開いた。
まさか、こんなことがあろうとは。

それからすぐに、差出人の名前を探す。
血眼になる、というが、今なら目から血でも何でも出そうな勢いだ。

紙の裏面に、名前が書かれている。
榊原有久(さかきばらありひさ)、とあった。







飛び跳ねるようにして、階段を駆け上がる。
手紙は、ブレザーの内ポケットに、大切にしまってある。
なんせ、相手はあの榊原君だ。いつも堂々としていて、高潔なイメージだったが、こんな奥手な一面もあったとは。
階段を上りながら、顔が綻ぶのを感じた。

階段
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