4部分:第四章
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確かに多くの別れを経験されてきました」
私は言葉を続けた。あえて彼女は見なかった。
「ですが。その方々は皆貴女をお待ちしておりますよ」
「私を」
「そうです。人は死んでも。それが別れではないのですよ」
「別の世界で会えるのですか」
「これはある人に言われたことですが」
私はまた言った。
「別れは確かにありますけれどね。絶対の別れはないのだと」
「はじめて聞きましたが」
「気付かれなかっただけです」
「長い間。生きていて、ですが」
「一つのことに捉われていると。他のものまで目がいかないのですよ」
「・・・・・・・・・」
黙ってしまった。機嫌を損ねてしまったのだろうかと思った。だがそれは違っていた。
「では。御会いできるのですね」
「そうです。次の世界で」
私は言う。
「皆さんお待ちしていますよ」
「では憂いは必要ありませんね」
「勿論です」
励ますつもりではなかったがこの言葉が出た。
「安心して旅立たれるといいですよ」
「それを聞いて救われました」
声が微笑んでいるのがわかった。
「それでは」
すっと立ち上がった。小銭を置いていく。
「また。御会いしましょう」
「はい、また」
それが別れの挨拶であった。彼女はそのまま何処へかと去って行った。後には何も残しはしなかった。
衣川での話であった。今ではもう遠い昔の話に思える。あの人は今どうしているだろうか。旅立たれたかも知れない。しかし私はそれを確かめる術を知らない。若しかすると知ることになるかも知れない。
だがそれは今ではない。しかしいずれやって来る。その時を楽しみにしておくだけであった。
八百比丘尼 完
2006・4・18
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