第四章
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だよ。それがわかってくれたみたいだね」
「今になってやっとね」
「そしてコロも」
「ソーニャとは違うけれど。素晴らしい犬だってことね」
「ソーニャはソーニャ、コロはコロでね」
「あなたはコロには気付いていたの?」
「まあね」
うっすらと笑って答えた。
「ちゃんとね。わかっていたよ」
「そうだったの。それじゃあわかっていなかったのは」
「まあそう気にすることはないよ」
落ち込もうとする妻を慰める。
「気付いたんだから」
「有り難う」
「確かに鈍くて外見も綺麗じゃないし小さいし。そんな犬だけれどね」
だがコロには他の犬よりもずっといいものがあるのだ。他の犬にはない素晴らしいものがあるのだ。
「優しい。気のいい犬なんだ」
「そうね」
「そんなコロだから一樹も気に入ったんだろうね。ほら、ソーニャは一樹と遊ぶ時一樹に合わせてるって感じだろ?」
「そういえばそうね」
これも言われてみてようやく気付いたことであった。迂闊と言えば迂闊かも知れない。母親として真美子は自分の至らなさに恥じる気持ちを感じた。
「けれどコロは違うんだ」
「コロは。一樹と一緒になってるのかしら」
「そうなんだ。一樹と一緒に楽しんで、一樹と一緒に悲しんで。一樹とコロはいつも一緒なんだ」
「そう。だから一樹はコロが好きだったの」
「それもわかってくれたみたいだな」
「今やっとね」
それまでわからなかった。いや、わかろうともしなかったと言うべきだろうか。コロのそうしたところに。ソーニャと比べてばかりでコロのことには気付かなかったのだ。気付こうともしなかったのだ。
「私、やっとコロのことがわかったわ」
「ソーニャとは比べられないだろう?」
「ええ」
そのうえで頷く。
「全然違うのね」
「そうさ。ソーニャだってその名前とは違っているし」
「コロもソーニャとは全然違う」
「けれどいい犬なんだ」
真美子に言い聞かせた形になった。
「コロはコロで」
「ソーニャはソーニャで」
「そういうことさ。ソーニャは名犬だよ、確かに」
これは否定のしようがない。
「コロは駄犬かも知れない、けれど」
「素晴らしい犬なのね」
「そう、名犬でも駄犬でも素晴らしい犬だってことには変わりはないんだ」
賢一の顔が明るくなっていた。
「ソーニャもコロも」
「いい犬なんだよ」
「ええ」
それが本当にやっとわかってきた。真美子は晴れやかな顔で窓の方を見る。
コロが笑っていた。にこやかな顔で真美子を見詰めていた。
真美子もそれに微笑み返す。そこには侮蔑も何もなかった。そのままの笑みであった。
名犬駄犬 完
2006・5・26
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