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名犬駄犬
第一章
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その子犬はこげ茶色で黒いぶちがあった。そして小さく、毛並みも何かよくない。それに目も小さく耳も小さい。鼻も顔立ちも何処となく不恰好でソーニャとは似ても似つかない外見だった。
 そして舌を出してへっへっ、と息をしている。とても賢そうには見えなかった。
「可愛いよね」
「ええ、まあ」
 一応受け答えはするがそうは思えなかった。どう見ても不細工だった。
「あの、一樹」
「何、お母さん」
「そのわんちゃんよね」
 もう一度問うた。ソーニャと比べるとあまりにも不細工だからだ。
「そうだけど。駄目?」
「いえ、そんなことはないわ」
 今更そんなことは言えない。それに一樹には人は容姿で判断するなと教えている。実際に彼女もそうではあるのだがこれは犬だ。やはり判断してしまう。
「それじゃあ小屋に入れとくね」
「え、ええ」
 一樹は喜んでその犬を小屋に入れた。もう買って家に置いておいたのだ。
「すぐに首輪をつけて鎖をする。これでもう完全に家の犬になった。
 真美子はそれを少し戸惑いながら見ていた。だがもう言ってしまったからには仕方ない。これで決まってしまっていた。
「お母さん」
 一樹は鎖までつけ終えると真美子に声をかけてきた。
「何?」
「名前。どうするの?」
「あっ、名前ね」
 言われてようやく気付いた。
「そうよね。やっぱり名前がないとね」 
 雑種でも何でも名前が必要だ。この子犬もそれは同じなのだ。
「何にしようかしら」
「コロなんてどうかな」
「コロ」
「うん、こいつ小さくてコロコロしてるから」
 一樹はコロを撫でながら言っている。
「丁度いい名前だと思うんだけれど」
「コロねえ」
 だが真美子はその名前が気に入らなかった。
 やはりソーニャを思い出してしまう。折角ロシアの有名な作家の小説のヒロインからとったというのに。それと比べるとコロなどという名前は実にちっぽけで格好の悪い名前に思えたのだ。
「何か」
「嫌なの?」
 一樹はそれを聞いてまた問うてきた。
「コロって名前で。駄目かなあ」
「そうじゃないけれど」
 真美子には真美子の好みがあるのだ。コロなどという名前は気に入らないのだ。
「もうちょっと」
「これでいいと思うけれど」
「でもね」
 そうは言ってもどうにもいい名前が思いつかない。
「じゃあお母さん考えてよ」
「うっ」
 案の定息子に下駄を預けられた。困ったことになったと思った。
「他にいい名前をさ」
「そう言われても」
 咄嗟に言われても考えつかない。
「ウラジミールなんてどうかしら」
「嫌だよ、そんなの」
 一樹は顔と声でそれを拒んだ。
「それじゃあイワン」
「馬鹿になりそうな名前だね」
 イワンの馬鹿は一樹も名前だけ知っているのだ。だからこう断
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