第百六十六話 利休の茶室にてその六
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「貴殿は幕府を開けぬ」
「そうじゃな。幕府を開くのは源氏じゃ」
「武田は開ける」
甲斐のこの家はというのだ。
「信玄公にその意志があるかはともかくな」
「源氏ならばじゃな」
「幕府は開ける」
武田家は甲斐源氏の嫡流である名門だ、信玄自身その自負がある。尚今川家は室町幕府の将軍継承権まで持っている。
「それはな」
「そうじゃな、しかしじゃ」
「しかしか」
「それは上杉家も同じこと」
「上杉謙信公もか」
「あの御仁は本来は平家じゃ」
長尾家がそうなのだ、謙信は信長と同じく平家なのだ、本来は。
しかしだ、今の彼はというと。
「上杉家に入った」
「源氏の」
「だから将軍になれるな」
「如何にも」
その通りだとだ、信長は顕如に答えた。
「足利家の家紋も使える」
「源氏のな」
「そして足利家の家紋を使えるのは」
顕如は持ち前の鋭さから話していく、この頭の切れのよさはまさに信長に匹敵するまでだ。
「貴殿もか」
「わしは受けておる」
他ならぬだ、義昭自身から既に受けているのだ。
「もうな」
「そうであったな。では」
「わしもまた幕府を開ける」
「そして征夷大将軍になるか」
「それと共にじゃ」
さらに言うのだった、ここで。
「わしは官位もな」
「それもか」
「手に入れるつもりじゃ」
「右大臣よりも上、つまり」
そうなるとだった、ここでも顕如は頭の切れを見せた。
「太政大臣か」
「そうなる」
「義満公を目指すか」
「それだけではない、泰平もな」
長きに渡らせるというのだ。
「それを貴殿にも見せよう」
「ふむ。では見せてもらおう」
「そしてその時にじゃな」
「本願寺は降る」
信長が天下を長きに渡って泰平に出来るだけのものを顕如に見せればだ、その時にだというのである。
「そうしよう」
「わかった、ではな」
「拙僧は嘘を言わぬ」
このこともだ、顕如は言った。
「決してな」
「そうじゃな、貴殿はな」
信長もわかった、そのことは。
「こうした時は決して欺かぬ」
「茶の場は欺く場ではない」
「ぶつかる場じゃな」
「茶の道は曲がった道にあらず」
顕如は茶の道についても言う、確かな目で。
「それならば」
「ぶつかるのじゃな」
「そうなる、それ故に」
「茶の場では欺かぬな」
「そこも貴殿と同じ」
そうだというのだ。
「だからこそ」
「約するか」
「利休殿もお聞きになられましたな」
「はい」
利休は顕如のその言葉に静かに答えた。
「今しがた」
「それもまた約となる」
「では見せよう、そして本願寺もじゃ」
「貴殿の天下の中に入れるか」
「天下泰平の中にな」
まさにだ、その中にだというのだ。
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