第六章
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イシャドーが印象的である。その彼女が驚いていた。
「日本語喋れるんだ」
「喋れますよ」
その奥さんワンダはにこりと笑って日本人に答える。店は外観も内装も純和風だ。日本人にとっては非常に馴染みのあるものであった。
「勉強しましたから」
「そうなんですか」
「お客さんは英語は?」
「まあ一応は」
だが日本語で応えるのだった。
「ですけれどやっぱり日本語の方が」
「では日本語でいいですね」
「できれば」
ワンダに対してこう答える。
「それで御願いします」
「わかりました。それではそのように」
「はい」
こうしたやり取りの後で店の奥に入る。カウンターに案内されると小さな子供がお盆を持って来た。その上にはお茶があった。
「お茶まであるんですか」
「ただし紅茶ですよ」
「紅茶!?」
「ここはニュージーランドのうどん屋だからそうなんですよ」
カウンターに来ていたワンダはまたにこりと笑ってみせて彼女に答えた。
「だからですよ」
「はあ。そうなんですか」
日本人はそれを聞いてもまだ驚きを顔に見せていた。
「紅茶ですか」
「緑茶もありますけれど」
「いえ、これでいいです」
出されたのでそれでいいとした。断るつもりはなかった。
「それで御願いします」
「わかりました。それじゃあそれで」
「はい。ところでですね」
「何でしょうか」
気さくに客に応えてきた。見れば客は彼女だけではなく店の中に十人程いる。ただし皆白人か南方系の顔である。つまりニュージーランド人というわけだ。日本人は彼女だけらしい。
「今の子供は」
「息子です」
「息子さんだったんですか」
「ええ。小さいけれど店の手伝いもしてくれるんですよ」
「そうなんですか」
またこの言葉を出す。少し呆然とした感じであった。話をしながら和風の碗に入れられている紅茶を飲む。何か微妙に不思議な感じがした。
「それで何を頼まれますか?」
「ええと、メニューは」
「はい、こちらです」
すぐに和風のメニューを出してきた。英語と日本語でそれぞれ書かれている。娘はそれを少し見た後でメニューを頼んだのであった。
「じゃあ天麩羅うどんを御願いできますか」
「天麩羅うどんですね」
「はい」
にこやかに笑ってワンダに告げる。
「それを御願いします」
「わかりました。あなた」
ここでカウンターの右端にいる大柄な男に声をかけた。見れば山の様な大きさである。
「天麩羅うどん一つよ」
「あいよ」
ここでも日本語だった。娘はその日本語を聞いて日本にいるような気になる。しかしそれは今飲んでいる紅茶により掻き消される。どうにも微妙な感触であった。
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