装備企画課
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一行の文字。
『――は、装甲車に不備等が判明した場合に直ちに正常に戻すこととする』
この一文は、あくまでも装甲車が正常に動かなかった場合を想定している。
初期不良でのエンジントラブルや操作異常。
その場合には代替を納入する事になるが、目の前の男はここを付いてきた。
即ち、脳波システムについても正常に戻すようにと。
言葉や対応こそは柔らかいが、否定を許さぬ強さがある。
最初の話し合いに「営業のいろはも知らない軍人など簡単ですよ」と、意気揚々と出向いた隣の男は、上と相談すると逃げかえるだけで精一杯だった。
それでもまだ良かったかもしれない。
その場で下手に約束をするよりも、時間は稼げたわけであるから。
だが、それによってこちらが不利になったのは事実。
そして、目の前の男は……。
視線をあげれば、相変わらず穏やかな表情でこちらの返答を待っている。
士官学校出の若造などとんでもない。
おそらくはアース――いや、他の企業の一流の営業と比べても遜色がないだろう。
そんな人物に対して、こちらが舐めてかかったのが失敗だ。
もし最初にトゥエインが出ていればとも思ったが、隣の男を派遣したのは彼自身だ。
「と、とりあえず、この件については社に戻って検討を――」
「先日もそうお聞きしました。本日は決定できる方をお願いしますと伝えていたはずなのですが」
「それは、申し訳ございません。しかし、今回の件は営業だけで決められることでもありませんので」
「わかりました。良い御返事をお待ちしております」
にこやかな微笑みは、しかし、次の言葉に逃げ道を防がれる。
「しかし、こちらとしても事が事なので急ぎ回答が欲しいところです。前回からすでに二週間が経過しているわけですし。いつまでに回答ができますか?」
「一カ月。……いや、二週間後には何とか」
「それだけで大丈夫ですか。また伸びると言われるとこちらも困ってしまいます。時間には余裕を持った方が良いのではないですか?」
「い、いえ。大丈夫です、お待たせするわけにもいきませんから」
「ありがとうございます。では、三週間後ではいかがでしょう?」
「感謝いたします」
トゥエインは作り笑いを浮かべ、差し出された手を握り返した。
+ + +
肩を落としたスーツ姿の男が会議室より退出していくのを見届けて、アレスは小さく息を吐いた。手元の書類をそろえながら、眉根を小さく揉む。
作っていた表情を崩しながら、思案した。
予想通り、あちら側は予測不能を盾に責任の所在をあやふやにしようとしていた。
それに対して、こちらは契約書の一文を元に改善の要求を告げている。
正直なところ――前世に比べれば随分と楽な仕事であった
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