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ノヴァの箱舟―The Ark of Nova―
#6『ファーストリべリオン』:4
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の『幸せ』を追い求めずにはいられなかったのだ。

 ――――幸せが欲しい。

 だから願う。だから望む。その先に、他者の『幸せ』を奪い尽くしたその先に、自らの『幸せ』があると信じて。それをこの手で、つかみ取る時が来るのだと信じて。

 だから――――ねぇ、私に、教えてよ。何が私の『幸せ』になるのか。


 『幸せ』を奪われる運命にある者が、その運命を遠ざけようと顔をそむける。その姿が、かつてどこかで見た『ダレカ(その人)』にそっくりで――――

 過去の自分が、過去の自分たちと、今の自分と共に云う。


「―――――――――ねぇ、どーして私を見てくれないの?」


 ***


 ずびしゃっ!という身の毛もよだつような怪音と共に、教会雑兵の首が、胴体と切り離された。凶器は小型の肉切り包丁……より正確には、それを模した短剣(ダガーナイフ)だ。ククリがその短剣の柄をしっかりと握り、雑兵の首をどこかへと吹き飛ばす。シュートは返り血を浴びて恍惚とほほ笑むククリをしり目に、周囲の状況を確認した。

 生き人はもはやほとんど残っていない。万全の状態で立っている人間については、自分たちを除けば皆無だ。全員が何らかの重傷を負っているか、もしくは絶命している。

 どれもこれも、すべてこの少女――――ククリ・アメミヤの仕業である。赤みがかった菫色の髪を広げ、まるで死神の鎌か何かの様に包丁を振り回して、彼女は死をばらまいていく。彼女が通った後には一片の《幸せ》も残らない。彼女は略奪者。彼女は他人の幸せを奪うために生きている。

 『クロート・シュート』としての自分が、初めて彼女に出会ったのは、《教会》の監獄、その最奥部の中だった。その少女には、右半身がほとんどといっていいほど無かった。腕と脚は完全に消失し、下半身もほとんど形を成していない。薄気味悪い笑みを浮かべて、体のほとんどをマーキングに覆われた、醜い姿。それが、シュートが最初に見たククリの姿だった。

 そのときシュートの肉体は、彼女とほとんど同じ状態だったと記憶している。四肢を失い、右目は無く、体中をマーカーで覆われていた、だが、彼女ほどひどい状態ではなかったと思う。少なくとも、一日の大半は意識があったし、自分の意思で思考することができた。

 だが、初めて会った時、ククリはそうではなかった。一日の大半を昏倒してすごし、その間中、此処ではない何処かにいるかのようにうなされていた。目を覚ましても、誰か別の人間を見ているかのように、状況とずれた言葉を口にすることが多かった。

 彼女が見た目通りの十代の少女でないことは、偶然彼女から聞いた。彼女の記憶は、覚えている限りで1210年以上続いているという。もっとも古い記憶では、いまだ文明が旧時代の物であったという
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