幽霊の話
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を怠惰に過ごしていた。
寝間着姿で布団にくるまり、ひたすらにテレビを見つめる父を、母が疎ましそうに見ていたのを覚えている。
それも仕方のないことである。父と母を繋ぐものは、僕だけだったのだから。
父と母の馴れ初めは、大学だった。
サークル仲間だった二人は、飲み会の後、酒に酔った勢いで、夜の街のいかがわしいホテルに二人で雪崩れ込み、性行為に及んでしまったのが事の発端だった。
父は母に対して、罪悪感と責任感を感じたらしい。
それからずるずると関係は続き、父の就職が決まったところで、母の妊娠が分かったらしかった。
恋だとか愛だとか、そういったものよりも、より機械的な要因によって、僕は生まれたのだ。
それに特別な執着はなかった。男女がくっつく理由の一つとして考えるなら、充分すぎるだろう。
むしろ、二人の結婚は僕を想ってのことだった。今時の子供は、いい子であることを強要され、暴力への欲求を抑圧して日々を送っている。
彼らは、溜めこんだガスを抜く手段に、飢えている。
親が一人いない、というだけでも、充分人を踏みつける理由になり得る。
といっても、理由が必要なのは、彼らの罪悪感を打ち消すためであり、彼らが振るっているのは、正義や大義などの、信念や守るべきもののための暴力ではないのだが。
何の非もない相手を踏みつけると、心の奥底に眠った罪悪感が呻くのだろう、と勝手に推測する。
それに加え、周りからは「ひどい奴だ」と見られる。子供とはいえ、学校は人が集まる場所であるために、大人と同様の、集団の性質を有する。
その集団の中でもっとも致命的な行為は、敵を作ることだ。
集団の中に敵を作らないために、集団の外で共通の敵を作る、というのも一つの要因だろう。
ここまでくると、いじめという行為は、人間の本能に刷り込まれたものなのではないだろうか、と疑いたくなってくる。
そういった集団の性質の犠牲者に、僕が選ばれないように、両親は結婚した。
結婚して、僕の親として、普通の子供として生きてゆけるよう、必死に導いてくれた。
それだけで、充分だった。もっとも、これは言えずじまいだったが。
父が死んだ後、母にも乳がんが見つかった。
体のあちこちに転移しており、父同様、手術を行っても、助かる可能性は低かった。
「こんなところであの人とお揃いだなんて」母は、自嘲するように笑いながら言った。
その母の、渇いた笑顔を見て、僕は進路を就職にすることを決意した。
決意したその年の夏、幽霊になった。進路は進学でも就職でもなく、幽霊だった。これは予想外だった。
校舎はA棟とB棟の二つがあるため、当然、屋上も二つある。
A棟の屋上には底の青い綺麗なプールがあるが、B棟の屋上には給水タンクが寂しげに、ぽつんと佇んでいるだけだっ
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