第三章
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第三章
「どちらでしょうか」
「そ、それはですね」
明らかに声が震えている古館であった。
「あちらです」
「そうですか。あちらですか」
「そ、そうです」
声は震えたままであった。
「体育館の奥で」
「ああ、あそこですね」
わざと古館がそこを見るように入口から見える体育館の奥の方の扉を指差してみせた。木とテープの体育館の床の奥にその木製の左右に開く扉があった。
「あそこですね」
「そうです。あそこです」
「そういえばですね」
ここでまた言ってみせる岩清水であった。
「今体育館に先生は」
「斉藤先生ですか!?」
「斉藤先生とは?」
「あっ、いやあれです」
自分の言葉に気付いて慌てて訂正する古館であった。
「この学校の教頭先生でして」
「教頭先生ですか」
「私が一年の時体育の先生だったんですよ。学年主任で」
彼は何かを隠す様に必死に話していくのだった。
「いや、いつも頑張ってましてね」
「そうだったんですか。目立つ先生だったんですね」
「はい。それでですけれど」
岩清水はあえて表情を消している。そのうえで冷静に話を聞いているふりをしていた。その顔は能面の様であったが実はその裏で古館の言葉を読んでいるのだった。
「今度はですね」
「どちらへ?」
「ええとですね」
「ああ、そうですね」
ここで岩清水はヤマをかけることにしたのだった。そうしてこう言ってみせたのであった。
「庭園に行きたいですね」
「庭園ですか」
「はい、そこです」
そこだというのである。実は彼は事前にこの学園の地図は調べていた。そうしてそのうえで彼に対して言ってみせたのである。
「そこに行きたいのですが」
「庭園ですか」
それを聞いた古館はさらに困惑した顔になっていた。顔には汗まで流れている。そこまで暑くはないというのにである。
「そこにですか」
「ええ、そこにです」
「わかりました」
暫く考えたが喉をごくりと鳴らした後で。頷いた彼であった。
「ではそちらに」
「はい」
こうして二人はその庭園に向かった。そこは小道がありまた緑が豊かであった。木々も高く人が完全に隠れる程であった。しかもそこには和風の茶室まであった。
「茶室もあるのですか」
「いいでしょう」
学校の中に茶室がある学校というのはかなりのものだ。自慢すべきものであろう。しかし古館の顔は何故か微かに引き攣っていた。岩清水はそれに気付かないふりをして言うのであった。
「ここもまた我が学園の自慢の場所なのですよ」
「そうなのですか」
「はい、私も学生時代よくここを歩きました」
「いい場所ですね」
岩清水は目で左右を見回しながらまずはこう述べた。
そうして、であった。ここでこうも言ってみせたのであった。
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