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英雄王の再来
第8騎 帰還
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を塗り込み、金、銀の装飾を施したもので、まるで宮殿のようである。しかし、それは今や燃え盛り、黒い煙を濛々と立ち上げ、黒い煤で見るも無残な物へと化していた。

「将軍!バショーセル将軍は何処に!?」
燃えているのも気にせずに、天幕へと走り込む。そこにあった物は、全裸で床に寝転がる一つの死体と、それを家畜でも見るような目で眺めている生きた人間であった。その人間の手に、血で濡れた短剣を持っている。短剣から滴る赤色の血は、その真下に小さな池を作っていた。

「将軍!ご無事でしたか・・。」
私は生きた人間の方へと声を掛けた。床に眠る死体は、若く、均整の取れた肉体をしている男だ。恐らく、同衾していた者であろう。バショーセル・トルディ将軍が男色家である事は、軍の中では有名で、その“被害”にあったものは数が知れないと言う。

「ふふ、ふははは!」
背筋を、氷塊が擦り落ちた。全身に鳥肌が立ち、心臓は壊れる程に鼓動を早くする。死体を眺めていた将軍は、私の問い掛けに笑い声で応えたのだ。何に笑っているのか、理解する事は出来ない。異様な雰囲気だけが、私に理解出来た。

「敵軍はどこの部隊かしら・・?」

「は、はい!私が見た限りでは、黒地に白い百合・・・エル・シュトラディールかと。」
それを声にした後、私は後悔した。“私が見た限り”などと言う中途半端な情報を告げる事は、この人の琴線に触れるような行為だ。身を固くして、降り掛かるであろう“災厄”に恐怖する。しかし、降りかかったのは、狂人のような罵声でも、血に濡れた短剣でもなかった。

「・・・そう。」

「へ・・?」
間の抜けた返事をしてしまう。それ程に、予想をもし得なかったモノが返ってきたのである。将軍は、沈み込むように背筋を曲げ、下を向いている。手から短剣が滑り落ち、偶然か、同衾していた死体の顔に突き刺さった。鈍い音を立て、さらに血が迸る。

「将軍、逃げませんと!敵の手はそこまで迫っております!」
そう言って、将軍の顔を覗き見るように少し屈む。そうして見えた彼の眼は、今まで見てきた何よりも恐ろしいモノだった。瞳孔が開いたような焦点の合わない眼は、血走り、その瞳に悔恨の色を映していた。

「ひっ・・!」
無意識に後ずさり、足の力が抜け、地面に倒れ込む。将軍はゆっくりと首を回し、こちらに眼を向けた。死体に突き刺さる短剣を抜き取り、身体をこちらへと向ける。ゆっくりと、ゆっくりと足をこちらへと進め、彼との距離は次第に縮まっていく。

「や、やめ・・あ。ああ・・や。」
声に成らぬ音が口から漏れ出す。恐怖に足が竦み、うまく動く事が出来ない。そうこうしている内に、もはや、彼との距離は手を伸ばすほどの距離だった。

「ああああああああ!」
焦点の合わない、血走った眼が私を見据え、手に持
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