第8騎 帰還
[8/12]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初
に控えさせた黒い影が、湧き始めたのだ。最初はゆっくりと、しかし次第に早く、多く、数を増やしていく。そして、彼がはっきりとそれらを見据えた頃、その黒い影は、稜線を埋め尽くしていた。
同時刻
トルティヤ平原北部 グシャフールスの丘
従卒 エーリク・キステリナル
私は飛び起きた。文字通り、地より20ルミフェルグ(20cm)程も跳ね上がり、落ちた際の衝撃と痛みで、数秒動けなかった。
早朝、朝日が昇り始めた頃である。バショーセル将軍を起こす時間はまだ先なので、もう少し寝る事が出来たのに。私は、地を突き上げるような地響きに、そして、その地響きを体現するかのような大きな声の轟に起こされたのだ。大地と空気を震わせ、その振動は、私の心臓を高まらせた。兎にも角にも、天幕を飛び出した。
眩い朝日の光が目に差し込み、瞼を瞬かせる。その明るさに眼が慣れず、周りをはっきりと捉える事が出来ない。ゆっくりと周りの輪郭を捉え、光景がその瞳に写った。
天幕が燃え、濛々と黒い煙を吐き出している。燃えたぎるそれは、上空へと舞い上がり火の粉を地上へと振らせていた。それを縫うように逃げ惑うアカイア兵、血に濡れ、汗で汚れる顔を恐怖が彩っている。中には腕が無い者、足や手首が無い者もいる。辺りは焦げ臭い匂いと、血臭が混じり合い、悲鳴と怒号、金属の弾き合う音、逃げ惑う兵の軍靴が秩序なく地を踏みしめ、勢いと秩序たる馬蹄が響いている。
「なん、だ・・。これは・・・。」
そう、呟いた。言い得ぬ匂いと光景に、咄嗟に口を手で覆う。何たる光景か、昨夜までの戦勝気分が自らを蒸し返すようである。テリール・シェルコットが齎した情報は、それほどまでの価値を有していたし、それに溺れる程、エル・シュトラディールという人間を恨んでいたのだ。いや、嫉妬と言ってもいい。
ふと、馬蹄が後背に響いた。私は振り返ることなく、咄嗟に身を縮める。先ほどまで私の頭があった場所を、空気を割いて白刃が切り裂いた。アトゥスの騎兵が、通り様に立ち竦む私に斬りかかったのだった。それに失敗した騎兵は、一度だけ舌打ちをして、そのまま違う獲物を探すように駆けて行った。
「あ、危ない。ここまで敵兵が入り込んでいる。しかも、騎兵は陣地内を駆け巡っているとは、それ程までに我が軍は混乱し、秩序だって行動できていないのか・・。」
あちこちに味方の死体が転がり、呻き、もうすぐその仲間になろうとしている者も多くいる。心情的には、彼らに声を掛けてやりたいが、自分の仕事をせねばならない。バショーセル・トルディ将軍の安否を確認しなければ。この混乱の最中であっても、真面目にそんな事を考えた。敵の騎兵に気を付けつつ、将軍の天幕へと急いだ。
将軍が陣中、寝泊りする天幕は豪奢と言って良い。希少な生糸で編んだ布に、赤色の染料
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ