第8騎 帰還
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アトゥス王国歴358年5月6日 早朝
トルティヤ平原北部 グシャフールスの丘
アカイア王国軍本隊
“グシャフールスの丘”は東西10ルシフェルグ(10km)、南北8ルシフェルグ(8km)に渡って、緩やかな起伏を見せるマイシュタニ丘陵の一部である。マイシュタニ丘陵の山頂は252フェルグ(この場合、海抜252m)あり、“グシャフールスの丘”は186フェルグ(海抜186m)ほどの高さがあった。また、マイシュタニ丘陵は、北東部分が急斜面で、北から西、西から南にかけては緩斜面が続いている。その緩斜面部分に“グシャフールスの丘“があり、後背を攻められる心配がない故に、アカイア王国軍がそこに南西向きへと陣を敷いていた。
グシャフールスの丘に駐留するアカイア王国南方方面軍は、総勢2万9千2百である。つい、3日ほど前までは、後2万の軍勢が居た。しかし、アトゥス王国軍を奇襲する為に、テリール・シェルコットが率い、分かれていたのである。それでも、その戦力は3万に近い。これ程の大軍の中に居る兵たちは、一種の疾病を患う。それは所謂、数に慢心し、注意を怠るという疾病だ。南西方面に緩斜面を有するグシャフールスの丘に布陣している為、彼らの意識は其方に向いている。多くの斥候兵や見張り、その他の哨戒兵も基本、南西方面に重点を置いていたのだ。その南西方面とは逆の方向、北東方面は急斜面とは言え、登れない事もなく、通常の軍隊においては無視できない地形である。しかし、アカイア王国軍の兵達には、疾病が蔓延しており、自分たちが無意識のうちに、それらを思考の外に置いていた。いや、むしろ、それを無視している事にすら気づいていなかったのかもしれない。そして、それは彼らの目に見える形で、“症状”として現れるのである。
薄く広がる朝靄の中、澄んだ空気が丘を包んでいる。靄を取り払うように朝日が稜線上に顔を出す。絵具を零したように、朱色の光が辺りを輝かせていく。水面に、少しずつ溶いた絵具を落とすように。朝日が顔を出すのと同時に、次第に気温が上がり朝靄が姿を消す。辺りは朝の澄んだ空気が満たし、遠くまでの風景を目に写すことが出来る。
明暮の朝、そう言える風景であった。そんな早朝を、彼らは無理強いに起こされた。しかし、それは鳥の囀りでも、動物の嘶きでも、寝遅れてしまった時の上官からの叱責が原因ではない。地を突き上げるような地響きによってであった。
慌てて飛び起きた見張りは、グシャフールスの丘の北東、このマイシュタニ丘陵の頂上付近に目をやった。その稜線上に朝日が被り、朱い光が強く輝き縁を染め上げる。彼は、眩しさに目を細めた。目が覚めたばかりの眼には、刺激が強いのだ。目を何度も擦り、瞬く。やっと目は慣れてきた頃だ、それはポツリポツリと現れた。朱く輝く稜線上に朝日を後ろ
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