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英雄王の再来
第8騎 帰還
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より少しばかり前に立っており、振り向かなければ、今の一連の動作は分からない筈だ。そんな事を気に掛ける私とは裏腹に、ソイニは嬉々として話し掛ける。

「今回の戦闘、凄いですね。野営地を組んだ後、小火を起こして注意を引き、その内に野営地を抜けて待ち伏せを仕返すなんて・・・。」

「いや、そうじゃないよ。それは、現場での小細工に過ぎない。この戦闘の根幹は、シャプール砦で、テリール・シェルコットに“喧嘩”を見せた事に始まる。必要な“駒”を適切な場所に配置して、時宜に仕事をする・・・それだけで、今回の戦闘は“必然”となる。」
その言葉に、まじまじと彼の顔を見てしまう。私達が従卒として最初の仕事を頂いて、テリール・シェルコットの部屋を見張り、ヒュセル王子が彼に接触する所を盗み見た。その行軍路は偽物で、彼らが混乱する事が狙いなのだと思っていた。しかし、それは想像の範疇を超えるものだ。行軍路は“本物”で、それがアカイア王国軍に渡り、こちらを狙って来る事を利用する。エル様を討つ為に分断したアカイア王国軍は、それぞれの要因で油断する事となる。彼の、13歳になる男の子の一挙一動に、“謀略”と言うどす黒いモノが渦巻いていた。
冷たい汗が、背中を流れ落ちる。それに身体の芯から震えるように、身震いをする。恐ろしい・・・そう、感じているのかもしれない。
 顔を上げたその時、私の体温は一気に下がった。エル様が、こちらを見ていたのだ。

「怖い?・・・ルチル。」
静かに、でも少しばかりの濁りを見せる。私はその問い掛けに、勢いよく首を横に何度も振った。それに彼は苦笑しつつ、手に持った一枚布の外套を羽織る。

「5月とは言え、夜は冷えるな・・・。ソイニ、ルチル、各士騎長、兵騎長を集めてくれ。すぐにでも行軍を再開し、シャプール方面に残るアカイア王国軍の本隊を奇襲する。」
振り返って、私達の間を通りつつ言葉を発した。黒い地に、白い百合の花が刺繍されている外套が、吹き抜ける強い風に揺れる。炎に赤く照らさられる彼の顔は、少しだけ、“憂い”を含んでいるように見えた。

 この“ヴェイズタヤの野”で行われた戦闘において、アカイア王国軍は、そのほぼ半数である1万人を優に超える戦死者を出した。燃え盛る炎に巻かれた者、アトゥス兵に斬られた者、味方と同士討ちとなった者・・・あの混乱する戦場で、多くの死に方を選ばされた。残りのアカイア兵は、軍として組織できなくなった為に、混乱する戦場から我先にと逃げ出したのである。火計を掛けられ、思いもしない奇襲に逃げ場を失い、逃げる事しか考える事が出来なかった。逃げた者たちは“敵前逃亡者”の烙印を押される。故国へと帰る事も出来ないし、敵国であるこの地で生きる事も難しい。彼らの今後の人生には、苦難と困難が待ち受ける事、それは誰もがその意見を違える事はない
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