第8騎 帰還
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もう少しで野営地の外へと這い出れそうだと言う時に、悲鳴にも似た声に呼び止められた。しかし、テリールは無視して歩を進めようとした。声を掛けたアカイア兵は、テリールの前に立ち塞がり、周りの音に負けない位の声を上げる。
「総督!我が軍は総崩れ、もはや、軍隊として機能などしておりません。しかし、それでも指揮官が逃げようとするとは、如何なものですか!?」
「・・・・・れ」
小さく、呟く。
「え?」
「黙れぇ!」
一瞬の間、テリールは叫びながら、赤く反射する長剣を振り抜いた。思いも由らぬアカイア兵は反応に遅れ、長剣は彼に吸い込まれるように、頸椎を赤い血飛沫と共に砕いた。骨が砕ける鈍い音と、口から泡を吹くような音が響く。
「黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!」
既に絶命しているアカイア兵を、長剣で何度も叩き付けながら狂ったように叫ぶ。不幸にも指揮官に斬られたアカイア兵は、人の形を失くし、ただの肉塊と成す。
大きく肩で息をしながら、手を膝に置く。息をする度に吐き気が強くなり、次第に我慢出来なくなり、嘔吐した。地面に茶色の汚物が滴り落ち、酸っぱい匂いが立ち込めた。視界が滲み、目に涙が溜まっている事に気付く。溜めきれなくなり、頬に落ちる涙は、周りの熱で蒸発する。自分の嘔吐物の上とも関わらず、力が抜け、崩れ落ちた。身体が震え、天を見上げる。
「なんだよ・・・なんなんだよ、これは。」
その視線の先には、吸い込まれそうな程に黒い、宵闇の空間が広がっていた。
アトゥス王国歴358年5月5日 深夜
トルティヤ平原東部 ヴェイズタヤの野
従卒 ルチル・ラウリラ
宵闇に包まれている筈の草原を、大きな災厄の塊が煌々と照らしている。辺りは1ルシフェルグ(1km)もの距離を、明るくさせるほどであった。それを考えれば、アカイア軍(殊更、テリール・シェルコット)にとって、どれほどの災厄であったか分かるだろう。
戦闘が終了してから既に2時間が経過している。しかし、アトゥス王国軍の野営地であった場所は、今も尚、炎に包まれ、嘔吐を催すような人間の焦げる匂いが立ち込めていた。
ちらりと、前に立つ“人”を見た。燃え盛る炎の明かりが、まだ、幼さが残るその顔を異形の様に見せる。ヴェイズタヤの野に広がる光景と、この匂いを感じても、彼の表情が変わる事はない。私よりも3つも下の筈なのに、随分と年上に見えるモノだ。
ふと、そんな彼に弟が声を掛ける。
「あ、あの・・・」
しかし、私がそれを遮った。同じ容姿を持つ弟・・ソイニの腕を掴み、ゆっくりと首を横に振る。その動作に、ソイニは意図を理解したのだろう、開いていた口を閉ざした。
「・・・構わないよ、ルチル。ソイニ、どうしたんだい?」
その声に、私は驚いた。彼は、私達
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