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英雄王の再来
第8騎 帰還
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かに蠢いていた。馬には縄を噛ませ、人間の兵士たちも紙を咥える。重く、音が鳴る甲冑は必要な部分を残して身に纏い、出来るだけ物音を立てない事に徹し、疲れて寝ているであろう敵を襲おうとしているのだ。その徹底ぶりには、誰もが関心したに違いない。それほどまでに、テリール・シェルコットがこの戦闘に懸けている気持ちが大きいのである。

 彼らの敵―エル・シュトラディール率いる一陣が、予定していた行軍路を辿り、ヴェイズタヤの野に現れたのは5月5日の昼過ぎの事であった。彼らは手早く円蓋、天幕を立て、柵を周りに張り巡らせたのである。それから彼らが寝静まるまでは、野営の端で小火が起きたくらいで、その他には何も警戒するようなところはなかった。

「斥候の報告はどうだ?」
静かに、問い掛けた。月明かりもない宵闇の中、張り詰めたような静寂が包み、自ずと緊張が高まる。

「はい、シェルコット総督。敵は行軍に疲れ、深い眠りについているようで、とても静かだそうです。夜が暮れる前には、中央の円蓋にエル・シュトラディールの姿も確認しております。」

「ふむ。予定通りと言う事か。味方の準備は万事整っておるか?」

「はい、滞りなく。」
力強く、そう答えた。それを聞いたテリールは、自分の後ろに広がる暗闇へと手を振る。その合図と共に、暗闇の中に無数の黒い影が蠢いた。彼は、アカイア王国南方方面軍第一等将軍バショーセル・トルディより、2万の軍隊を預かっていたのである。失敗を犯した人間に対し、2万の指揮権を与える所を見れば、バショーセルはただの “奇人”とは言えないのかもしれない。
 テリール率いる2万の大軍は、静かに、息を潜めてアトゥス王国軍の野営地へと近づいた。この時、天と地が彼らに味方していた。空は月明かりが漏れる事もないほどに重い雲が覆っており、アトゥス王国軍の野営地は小高くなっており、アカイア王国軍が移動していた所は少しばかり低くなっていた為、野営地のかがり火の光も届かなかったのだ。野営地に500フェルグ(500m)と近づいても、特に変化が見られない。勝利を確信したテリールは、鬨の声を上げた。

「それ、今だ!かかれ!」
その声に応えて、アカイア王国軍2万は大声を上げて、アトゥス王国軍の野営地へと飛び込んだのである。しかし、彼らはすぐに、その異様さを目の当たりにする。

「なんだ?誰もいないぞ!」

「こっちの天幕もだ!蛻の殻だぞ!」

「くそ、どうなっている!?」
野営地へと勢いよく踏込み、かがり火を蹴り倒し、薪を撒き散らす。白地に赤い縁取りの天幕を長剣で斬り裂き、声を張り上げた。勢いよく、柵の内側へとなだれ込み、寝て呆けているであろうアトゥス兵を血祭りに上げる筈であったのに、蓋を開けてみれば野営地は蛻の殻であったのだ。誰もが戸惑い、次への行動を見い
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