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英雄王の再来
第8騎 帰還
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は多かった。
 ミティマ様は、王城として使用しているアイナェル神殿の建造物最高責任者である為、多くの情報が集まってくる。今上の王、ジンセルス王も国政、財政、人との関係性など、多岐に渡る事柄で相談に持ち寄っていた。

「トルティヤ平原において、エル様の機転でアカイア王国軍を退けた事は知っていますよね?」

「はい。もちろんです。」
彼女の顔には、少しばかりの笑顔が見える。言わんとしている話は、恐らく悪い事ではないのだろう。春の陽気さを含む風で揺れていた紗幕は、今は静かに垂れ下がっている。その為か、春の陽気にじんわりと、服の下に汗を感じた。

「その後、クッカシャヴィー河に援軍として向かったのも?」
こくん、と首を縦に振って答える。

「エル様は、クッカシャヴィー河でもご活躍されて、チェルバエニア皇国軍を退けたそうよ。お怪我もなく、この1週間の内には帰還すると早馬があったそうです。本当は、軍事に関する事だから内緒の話なのだけれど。あなたには・・教えて置いた方がいいかもと思ってね。」

「・・・よかった。」
静かに、囁くように呟いた。止まっていた風が吹き始め、白く美しい紗幕を揺らす。風は私の身体をも吹き抜け、汗を感じていた所がひんやりとする。

「あぁ、よかった・・・。」
もう一度、囁く。手を胸の前に重ね、瞼を閉じる。いつも、その瞼の裏に映る“あの人”は、無事であったのだ。

 その後、少しばかりの話をして部屋を後にした。そして、そのまま中庭に足を向け、そこに体を横たえたのである。中庭を吹き抜ける風は、部屋にいた時よりも花の匂いを多く含み、甘さを感じた。それが体を撫で、暖かい日差しも相まって眠気を感じる。
ふと、先ほど自分が言った言葉が頭に浮かぶ。“生きる者の義務は、死々たる者を尊ぶ事にある”と言う言葉は、建国の始祖アイナ王の夫であるネストイル王の私記に残された一文である。そしてそれには、続きがある。“尊ぶは難し、されど、意思を聞くはより難し”という言葉・・・この言葉の中心は“意思を聞く”と言う所で、これは“死んだ者の意思は変わる事はない”という意味。つまり、死ねば何もかもが終わりとなる。その人が描いた夢も、思いも、気持ちも全てが砂で造られた城のように風に流されて消えるのだ。ネストイル王が、最愛の妻アイナ王が亡くなった後、どのような気持ちで彼女を思ったかが、良く分かるだろう。

「エル様・・・」
そう呟いた言葉は、甘い香りがする風へと流されていった。



アトゥス王国暦358年5月5日 夜
トルティヤ平原東部 ヴェイズタヤの野
アカイア王国軍陣営 総督 テリール・シェルコット


 深い濃い色をした雲が夜空を覆い、月明かりすら頼りに出来ない宵闇が辺りを包んでいた。その夜空と同じ色を心に写す者達が、静
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